アレクサンダー弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲12番を聴く(1997年5月、カリフォルニア、ベルヴェデーレでの録音)。
燃えるような中期の作品を書きあげたベートーヴェンはスランプに陥る。それに加え、私生活上のトラブルや、ナポレオン失脚後の反動化という社会情勢にも翻弄され、めぼしい作品を書くことができなくなる。
そんななか、火のような作品ではなく、深い思索に裏打ちされた幻想的な作品が生み出されていくようになり、ベートーヴェンの最晩年を彩ることになる。
「人類の至宝」と云われる、彼の後期の四重奏曲群の、最初に書かれたこれは作品であり、「第九」や「ミサ・ソレムニス」が書かれる中で生み出された。
冒頭で響く7つの音の柔らかさは、前作(といっても14年も前のこと)の「セリオーソ」を比べると大きくスタイルが異なる。
アレクサンダーの演奏は、明るめな音色でもって直球主体で弾き切ったもの。4楽章制をとる、一見なんの変哲もないものの、奥行きのあるこの音楽に、真正面から挑んでいる。
1楽章はまろやか。
2楽章は変奏曲であり、この曲のなかでもっとも長大。たっぷりと大きな呼吸でもって演奏しており、腕を競い合う。時間がたゆたうよう。
3楽章は、明るいながらも激しいものを持ち合わせた音楽であって、演奏は勢いがいい。
4楽章は溌剌とした音楽。テンポは、比較的ゆっくり。じっくりと足を地につけたような弦楽器。この演奏に限ったことではないけれど、ベートーヴェンのなにかが吹っ切れたような明るさをこの曲から感じないわけにいかない。
フレデリック・リフシッツ(ヴァイオリン)
ゲ・ファン・ヤン(ヴァイオリン)
ポール・ヤーブロウ(ヴィオラ)
サンディ・ウィルソン(チェロ)
パースのビッグムーン。
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