ヘンデル「エジプトのイスラエル人」 パロット指揮タヴァナー・コンソート、他吉田戦車の「一生懸命機械」を読む。
擬人化した身近な機械が、それぞれの機械人生を懸命に生きる。リモコン、圧力鍋、歯ブラシ…。
なかでも証明写真機が主人公の「フォト三郎の夢」はいい。
「証明写真機であるこの俺だが、躍動するスポーツ写真を撮りたいと、いつも思っていた」というわけで、少年野球チームの子供たちの協力を得て、見事な写真を撮りあげる。笑いあり涙ありの名作だ。
ヘンデルの「エジプトのイスラエル人」は、旧約聖書の出エジプト記に題材を採っているらしいが、相変わらず歌詞を読まないで聴いている(輸入盤なので読めないという事情もある)ので、どういった話なのかはわからない。しかしこれはいい曲だ。
序曲はなんとも寂しい。暗いのとはまた違う寂寥感が濃厚に漂う。重苦しくもすがすがしい不思議な感覚。これは、全曲を象徴した序曲というよりも、前半の雰囲気を予告するものであることが、聴き進むうちにわかってくる。
全体は、三部から構成されている。第一部は50分弱であり、序曲を除いた12曲のうち、9曲は独唱を伴わない合唱曲である。そのバランスゆえか、ソロにはこれといった聴きどころがない反面、合唱はとても聴き応えがある。重厚にして雄弁。
ことに7曲目の「he deliverd the poor that cried」や、10曲目の「their bodies are buried in peace」はずっしりとした歯ごたえと、スケールの大きな広がりのある、合唱曲の王道のような音楽だ。
第二部の前半は、レチタティーボがあるから、少しソロが幅をきかせている気がするが、全体的にはここでも合唱団が出ずっぱり。音楽は、第一部に比べるとだいぶ華やかさを増す。ことに、7曲目の「he gave them hail stones for rain」や、9曲目の「he smote all the first-born of egypt」。これらの、あけっぴろげな解放感に、ある種暴力的とも言える快感を感じる。
この部は、16曲で35分くらい。
第三部の始まりは、怒濤の激しさ。合唱団、金管、打楽器がこれでもかというくらいに炸裂する。
23曲で50分強。第一部と比べると、躍動感のある音楽がずいぶん多くなる。
アリアでは6曲目のバスによる二重唱「the lord is a man of war」が面白い。木管と弦、チェンバロの軽快な伴奏にのって、ふたりのバスがおっかけっこをするように代わる代わる歌い上げる。
最後はオーケストラと合唱の壮麗なフーガで締めくくられる。
タヴァナーは合唱、オケ共々技量が高いピリッと容姿の整っており、音楽に対して真摯な姿勢を感じないわけにいかない演奏だ。
ナンシー・アージェンタ(S)
エミリー・ヴァン・エヴェイラ(S)
ティモシー・ウィルソン(A)
アンソニー・ロルフ・ジョンソン(T)
デヴィッド・トーマス(B)
ジェレミー・ホワイト(B)
アンドリュー・パロット指揮
タヴァナー・プレイヤーズ&合唱団
19898年11月、ロンドン、アビーロード第1スタジオでの録音
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