ブラームス交響曲第4番 バルビローリ指揮ウイーン・フィル北尾トロの「男の隠れ家を持ってみた」を読む。
フリーライターの著者が、風呂なしのアパートを借りて本家との二重生活をするというもの。
知らない街に溶け込むために、隣人におせっかいを焼いたり、飲めないのにスナックに通ったりと悪戦苦闘。
私などは、男が隠れ家をもつ理由は、愛人を囲うとか、およそイケナイことを思いつくわけだが、この著者はそういう後ろめたいことではなく、ただ隠れ家をもつために隠れ家をもったわけだ。
取材のためといったらそれまでだけど、この隠れ家生活、あまりこれといった事件もなく淡々と過ぎてゆく。
住む場所が変わっても、自分が自分であるかぎり、実生活には大きな変化はないということだろう。
蒸し暑い季節ではあるけれど、たまにはコッテリとしたものを食べたくなるのは音楽も同じ。
暑苦しいブラームスのシンフォニーを、たっぷりと脂の乗ったバルビローリの指揮で。
これは中学時代に図書館で借りたLPを聴いて感涙した1枚である。
大人になってから聴き返してみると、当時ほどには感激しないものの、実にユニークな演奏であることを思い知らされる。
冒頭からバルビ節が炸裂しており、とまどいながらも引き込まれてゆく。こういう音楽には、身も心もまかせてしまったほうが面白く聴くことができる。
テンポは極遅、思い入れたっぷりの鳴らしっぷりはバルビローリの独壇場である。チェリビダッケも遅いテンポによる名演奏だけれど、温度差があって、バルビローリのはひたすらに暑い、いや熱い。
それぞれの楽器がとても雄弁に鳴っていて、3楽章なんかは意外にリズミカル。内声部も自然に聴こえてくるので、テンポの遅さ以上に広がりを感じる。
ウイーン・フィルの響きは、このオケにしては濃厚ではなくサッパリしている。
こんな面白い演奏が、今は廃盤とは残念。
1967年12月、ウイーンでの録音。
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