ショパン「ピアノ協奏曲第1番」 リパッティ(Pf) アッカーマン指揮チューリヒ・トーンハレ管クリント・イーストウッド監督の「インビクタス」を観る。
南アフリカの大統領に就任したマンデラが、国民の団結を目指す政策の一貫としてラグビーに着目する。ラグビーチーム主将のピナールに接し、チームを盛りたててワールドカップの優勝に挑むという話。
変化球なし直球ど真ん中の感動ものである。イーストウッドにしては珍しいのじゃないかと思う。アパルトヘイトを扱ってはいるものの、暗い影はほんのちょっとしたスパイスにすぎないようにみえた。
黒人と白人との折り合いをつけるためといいながらラグビーにのめり込むマンデラ大統領は、実は単なる1ファンであるというような雰囲気を醸し出しているところに人間くささがあって、いかにもよい話といった感じ。
白人の警備員がラグビーの試合のラジオ中継を聴いているところに、みすぼらしい恰好をした黒人の女の子が近づいてくる。最初は「あっちへ行け」と女の子を追い払うが、試合が進むにつれて一緒に夢中になってラジオに聴き入り、最後のホイッスルが鳴ると抱き合って喜びあう。
こりゃ泣ける。
モーガン・フリーマンの大統領は貫録たっぷり、完璧なはまり役。マット・デイモンの抑えた演技もいい。
リパッティのショパン。
序奏からねっとりと重厚なオーケストラが響き渡る。思い入れたっぷりといった感じの序奏である。単なる伴奏指揮者の域を超えた思い切りのよさと幅広さのある演奏であり、こういうことをされたらピアニストも燃えるに違いない。
おもむろに登場するリパッティのピアノもまた重い響きを聴かせる。太い芯が揺るぎなく屹立しているような音。このピアニストはこういう音も出すのだな。
ひとつひとつの音は粒立っていて真珠のように美しいし、分厚い憂いにも満ちている。都会的に洗練されたスマートなピアノ。
この曲については、記録的遅さをマークしたツィメルマンの弾き振り演奏がとても印象的だったが、このリパッティとアッカーマンによる演奏もそうとうに粘っている。悲劇的な香りは負けずに濃厚だ。
1950年2月、チューリヒでの録音。
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