シューマン「謝肉祭」 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(Pf)柳井正の「一勝九敗」を読む。
現在ファーストリテイリング社長である著者が描く「ユニクロ」成長記。
全編に渡って自慢話に満ちている。迷いがないところは痛快。途中で読むのが辛くなったが、電車のなかだったので行きがかりじょう読み終えた。
丁寧なことに巻末には「起業家十戒」なるものが添えられている。
著者はもはや日本のトップの富豪であるので、標題は嫌味を超越した選定といえる。
ミケランジェリによる「謝肉祭」の旧盤。
1957年のスタジオ録音なのにモノラルなのが痛いといえるが、音は悪くない。この時代のミケランジェリの凄さを、全曲に渡ってじゅうぶんに伝えてくれる。
まずなによりピアノの音がいい。泡の混ざらない氷のように透明で強い力があって鋭く輝かしい。
もうこれしかないという決然たる態度が漲っていて、一分の迷いもない。
あたりまえのことであるが、普段まみれている日常生活とは隔絶された世界だ。俗世間のわだかまりなんかを一瞬たりとも感じることはできない浮遊の境地といえる。
音の美しさに加えてシューマンの霊感も濃厚このうえない。張り詰めた緊張感と幻想味が全曲を覆い、いっときたりとも聴き逃すことはできないが、どれか一曲といわれたら14曲目「再会」に止めを刺すことになる。ピアノの最高の音にして、楽器そのものさえ忘れそうな至福の響き。ただただ快感である。
こういう音を他のどこで聴くことができるだろう。そうそうあるものではない。
1957年3月、ロンドンBBCスタジオでの録音。
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