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ルートヴィヒとレヴァインのシューベルト「冬の旅」

2009.07.25 - シューベルト


sc

シューベルト「冬の旅」 クリスタ・ルートヴィヒ(Ms) ジェームス・レヴァイン(Pf)


今の季節にこれはないだろうと自嘲しながら「冬の旅」を聴く。

20年以上前の学生時代、友人と二人で房総の海へドライブに行ったことがある。親父の車にはカーステはおろか、エアコンもついていない代物だったので、窓は全開でラジカセを持ち込んだ。
そのときに選んだカセットがよりによって「冬の旅」。エアチェックしたシュライアーの歌によるものだった。
なぜこの曲を選んだのか?暗い曲を好きだったから。
片道に2時間かかるから、じゅうぶんに全曲を通して聴くことができた。
やがて九十九里浜へ着き、泳ぐわけでもなく日光浴をするわけでもなく、おもむろにキャッチボールを始めたものだ。
そして帰りも「冬の旅」。
暗い青春である。


ルートヴィヒのこの録音は、女性歌手による「冬の旅」のはしりとなるものだろう。歌詞の内容や曲そのものの重苦しい色調から、女性歌手がこの曲を歌うことを想定していなかったものだが、聴いてみると違和感はない。
ルートヴィヒの掘り下げの深い解釈と呼吸のたっぷりとした歌唱がきいている。
レヴァインのピアノは明快。フットワークがよく、色調は明るめ。
全24曲に渡ってムラがなく質が高いが、特に気に入ったのは7曲目「川の上で」。ひとつひとつの言葉を噛み締めるような語り口であり、かつ流れるような歌いぶりがいい。12曲目「孤独」における多彩な表情も魅力。
曲によって微妙に、巧妙に表情を変化させるところ、ルートヴィヒの技は細やかだ。それぞれ深度は異なるものの、心の深いところに届く歌である。
声そのものが華やかなのは女性ならではだ。ホッターやディースカウはもちろん、シュライアーと比べてもそれは歴然としている。それは華やかといってもいいもので、青春のように暗いこれらの歌にあたかも紅が差すかのように際立っている。
技術の確かさ、表情の多彩さにおいて、このルートヴィヒの歌唱は実によく練られたもの。これだけ幅の広い歌を聴かせてくれる歌手は、メゾソプラノのなかではもちろん、男声を含めてもそうは見当たらない。それぞれの曲の完成度は傑出したものだ。
それにも関わらず、全曲を通して聴いたあとに、ほんのわずかな食い足りなさが残る。これがなんなのか、なにが足りていないのか、よくわからない。


sc


1986年12月、ウイーン楽友協会、ブラームス・ザールでの録音。
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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます〜

カーステ、エアコンのない車って懐かしいですね
昔はみんなそうだったですよね
それでも、なにがしかの開放感があったような気もします。

最近。シュライアーとリヒテルの「冬の旅」を入手したのですが、あまりに暗くて(爆)、すぐに聴くのを止めました、爆〜。

ルートヴィヒさんのあの温かい声は、「冬の旅」に向いているかもしれませんね〜。未聴ですが〜。
この録音の頃は、まだまだ新譜がたくさん出ていた頃ですよね。今は、再発ばかりになってきていますね〜。
クラシック業界も不況なのでしょうか?
ちょっと寂しい感じもします。

ミ(`w´彡)
2009.07.26 Sun 09:47 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

テールランプが縦目のカリーナでした。当時は若かったからクーラーなしでもさほど気になりませんでしたが、今は無理です。特に昨日今日の暑さには耐えられそうにありません。

シュライアーとリヒテルの「冬の旅」を入手しましたか。ライヴの抜粋をFMで放送したことがあり、リヒテルのピアノの存在感の大きさに唖然とした記憶があります。

ルートヴィヒの演奏は、仰るように声に温かみがあるので、暗すぎないところがよいです。

>この録音の頃は、まだまだ新譜がたくさん出ていた頃ですよね。今は、再発ばかりになってきていますね〜。

カラヤンがいなくなってから変わったような気がしますね。再発ばかり買っています。
2009.07.26 16:32

無題 - neoros2019

三十年以上前、大学のクラシック研究会の一期下の人間とつげ義春に心酔し房総の宿を求めて1泊したことがあります
この友人は今、音楽では鑑賞対象をシューベルトに絞って生活しているようです
http://blogs.yahoo.co.jp/jisy911/4044455.html
この友人とカミュやドストエフスキー、フロム、ユング、高橋克己など読みまくった学生時代でした
とりわけドストエフスキーの悪霊には二人とも何とも言葉につかぬ深い衝撃を受けましたね
2009.07.27 Mon 19:47 URL [ Edit ]

Re:neoros2019さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

いつも、コメントをありがとうございます。

つげ義春の旅行記を立ち読みしたことがありますが、昭和の懐かしい匂いがしました(買って読め!)。漫画も読んでみたいですね

ご友人の記事を拝見しました。シューベルトのピアノソナタはときに冗長と言われますが、演奏の按配とか聴くときの体調によっては気の遠くなるような長さを感じることがあります。一筋縄ではいかない音楽ですが、それだけに興味をそそられるところも多いです。
「カラマーゾフ」、「白痴」、「罪と罰」は読みましたが、「悪霊」はまだなのです。はたして生きているうちに読めるのか(読む気になるのか…)。
2009.07.30 17:51
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