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クリーンのシューベルト「ピアノソナタ第17番」

2008.12.14 - シューベルト

shubert

シューベルト ピアノ・ソナタ集 ワルター・クリーン(Pf)


村上春樹の「意味がなければスイングはない」を読む。
文庫本で平積みになっているのを店頭で発見して入手。
単行本で何度か読んでいるけれど、いまだにクラシック以外の章は手つかず…。
それに比べて何度も目を通している、ゼルキンやルービンシュタイン、プーランク、シューベルトについての文章はめっぽう面白い。
ふたりの対称的なピアニストの伝記から迫る人間像、プーランクを「世界中のお膳をひっくり返してまわるよう」に弾く、ホロヴィッツ。
腕を振るった贅沢な料理と上等のワインを前にしたように、聴かないではいてもたってもいられなくなるのだ。
そんなおいしい文章。
シューベルトのニ長調のソナタについて語る章もそう。そもそも、これを読んでこの曲を聴き始めたようなもの。
偉大すぎるモーツァルトとベートーベンに対するシューベルトについて。
『しかしシューベルトの音楽はそうではない。目線がもっと低い。むずかしいこと抜きで、我々を温かく迎え入れ、彼の音楽が醸し出す心地よいエーテルの中に、損得抜きで浸らせてくれる』。
モーツァルトやベートーヴェンも、損得抜きでいいものだと思うけれど、この文からはじんわりと著者のシューベルトに対する思い入れが伝わってくる。
この章のテーマである、シューベルトの17番のソナタについて。レコード録音の歴史においては、初期、中期、後期に大別されるという。その、中期の録音で、一番気に入っているのがクリーンとのこと。
『このシューベルトのニ長調もまことに素晴らしい。気張ったところのない、見事に自然体のシューベルトである。シューベルトを胸いっぱい吸い込んで、そのまますっと吐き出したら、こんな音楽が出てきました、という感じだ』。

そう、クリーンのシューベルトは、自然体。大袈裟な仕草や、背伸びがまるでない、普段どおりのやり方。
カラッと晴れた、青空の澄み切った冬の日曜日に、近くの公園に散歩に行くような、そんな身近さ、気楽さをここに感じるのだ。
このソナタでは、2楽章を特に気に入っている。
話下手な青年が、なにかを伝えようと、懸命に口を動かそうとしている、そんな音楽だ。
いいたいことはたくさんあるのだけど、不器用なので、それをうまく伝えることができない。
胸につまっているものはたくさんある。スマートに伝えることはできないけれど、勇気を出してなんとか伝えたい。その思いを、渾身のちからを振り絞って口から放つ、そんな熱い情熱が、クリーンのピアノのはしばしから聴こえてくるのだ。

1971年~73年の録音。
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Comment

無題 - ニョッキ

こんばんは。

シューベルトのピアノソナタ17番、来ましたね。
私もこの本を読んでこの曲に深く興味が湧きました。

演奏がクリーンというのも良いですね。

近いうちに是非聴きたいです。
2008.12.14 Sun 23:52 URL [ Edit ]

Re:ニョッキさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

シューベルトのピアノソナタ17番、いい曲です。昨日からボチボチ、シューベルトのソナタを聴いていますが、ボソボソ控えめな感じがいいものです。
クリーンのピアノが、ナチュラルでいいようです。過度な主張がないところが、こういった曲に合うように思います。
2008.12.15 21:42

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます

村上春樹さんの本、また読まれたんですね
私もクラシックに関するところだけは何度も読みました。
ルービンシュタインを最近聴きだしたのは、あの本の影響が強いようにも思います。

ワルター・クリーンの演奏、私も興味があり、ウィッシュリストに入れっぱなしにしていました。
17番は、クリストファー・カーゾンの演奏を、コメントをくださる方から薦められて、買っています。ブレンデル盤もありますが、リヒテルの演奏を聴いてみたいなと思っていますが〜。
吉田さんのコメントを読んでいますと、イェルク・デームスの演奏を思いだしてしまいます〜。

またまた欲しいCDが、爆〜
自分へのクリスマス・プレゼント、多すぎるように思いますし〜、爆〜。

ミ(`w´彡)
2008.12.15 Mon 07:10 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

村上春樹、今は翻訳ものを読んでいます。カポーティのアレなんですが。
ルービンシュタインに関するところ、面白いですね。娼館でピアノ演奏をぶっ放したなんて、この人ならではと思います。

17番のカーゾン、いいですね。いままで聴いた中では、これがイチオシです。次が、クリーンといったところです。
デムスとクリーン、音色が似ています。意外にムラがあるところも、似ているかもしれません。
ふたりとも、渋い芸風であります。
2008.12.15 21:50

シューベルトの世界 - 河合宏一(マーロウ、探偵調査)

35年ほど前、ワルター・クリーンのシューベルトのLP3セット買いました。金沢のディスク33の店員が強く勧めたからです。シューベルトはリヒテルのD960で開眼しました。クリーンの選集は自然で、シューベルトの深い悲しみを伝えてくれます。何度涙したことか、とにかくクリーンのシューベルトを愛しています。リヒテルのD960とイストミンのニ長調(村上春樹の好きな)は別の宝物として。
2012.06.17 Sun 18:26 [ Edit ]

クリーンのピアノ - 管理人:芳野達司

河合宏一(マーロウ、探偵調査)さん、はじめまして。
クリーンのLPセットのエピソード、よいですね。店員さんが勧めてくれるところ、今のネットでは味わうことのできないよさがあります。
私もリヒテルのD960は好きです。最初はセッション録音のほうではなく、FMで放送していたBBCのライヴを聴いて感動したものです。

>クリーンの選集は自然で、シューベルトの深い悲しみを伝えてくれます。
同感です。ずっと大切に手元に置きべきCDです。

イストミンのニ長調は、残念ながら未聴です。いつか聴いてみたいと思っています。
2012.06.18 08:11

死の予感と不安 - マーロウ、探偵調査

マーラーの死への憧れは、それが自身のことと思わなかったから、ワーグナーの死への憧れは愛と死がともに甘美であったから、しかしシューベルトは違う。彼は死にたくなぞなかった。しかし髪は抜け、治らない病と知っていた。死を迎えるにあたっての不安、死は本当に来るのだろうか?ニ長調のソナタは一見快活に始まるが、すぐにどうしてよいかわからず立ち止まる、でもまあいいか、もう少し歩んでみようか…終楽章の終わり、最後の時計の音が一層悲しい。イストミンの演奏はもう絶品である。
2014.01.04 Sat 13:09 [ Edit ]

シューベルトの死 - 管理人:芳野達司

マーロウ、探偵調査さん、こんにちは。
昨年、音楽の友社から出ているシューベルトの評伝を斜め読みしました。それによれば、どうも彼は、直前まで自分が死ぬことを現実のこととして受け止めていなかったように読み取れました。
なのに、晩年の作品は、晩年なりに聴こえる。不思議なものです。
「どうしてよいかわからず立ち止まる、でもまあいいか、もう少し歩んでみようか」
シューベルトの音楽を言い当てたお言葉と思います。
イストミン、まだ聴けていません。頭の片隅にはずっといるのですが。
2014.01.04 15:25
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