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吉田浩之と鈴木大介のシューベルト「美しい水車小屋の娘」(ラ・フォル・ジュルネ)

2008.05.06 - 演奏会


シューベルト「美しい水車小屋の娘」

吉田浩之(テノール)
鈴木大介(ギター)



10年くらい前、結果的にたしかプライの最後の来日公演のときに、「美しい水車小屋の娘」をやったことがあった。
これを聴くのが楽しみで、発売してすぐチケットを取って、首を長くして待っていたのだ。
ところが、当日になってやんごとなき急用ができて涙をのんだことがあって、それ以来、ケチがついてしまったというか、まだ一度も「水車小屋」を生で聴いたことがないのだった。
いっぽう、「冬の旅」は何度か聴いている。どちらかといえば演奏会に取り上げられるのは「冬の旅」のほうがずっと多いように思える。数えたことはないけれど、じっさいに多いのではないだろうか。
そういうこともあって、この演奏会はずっと楽しみだった。
今回の「ラ・フォル・ジュルネ」のなかで一番聴きたい演目で、伴奏がギターというところもうれしいところだ。

5月5日の当日になって、なんだかだるいと思ったら37度と少し、発熱していたが、内服液と錠剤をすすりこんでなんとか有楽町へ。
この前の演奏会はパスしてしまってもったいなかったが、このリサイタルはどうにかすべりこむことができた。
演奏は、予想以上に素晴らしかったといえる。
不勉強にして吉田というテノール歌手を知らなかったが、つやがあって柔らかく若々しい声の持ち主で、技巧も申し分なかったと思う。
いきなり、冒頭の1節目の音程がはずれていたので、一瞬、これはどうなることやらと思ったが、そのあとは完全に立ち直って、最後まで安定感のある歌を聴かせてくれた。
テンポの変化や感情の表現が比較的おだやかだったのは、伴奏がギターだったからかも知れない。
でも、ここぞという時に爆発した青春の発露には、失恋する男のつらさを生々しく感じないわけにいかなかった。
欲を言えば、暗譜で歌って欲しかった。常に斜め下を見ながらの歌唱だと、観客に対する訴えが弱くなる。
若者の魂の叫びを正面を向いて歌ったならば、感動はもっと大きくなったに違いない。

鈴木のギターはなんとも繊細で優美。
ときおりポルタメントをきかせながら、ほんのり甘口に仕上げるところは、ちょっとブリームのバッハに似ているような気もするが、こちらのほうがだいぶ柔らかい。
ピアノのような激しいアタックはなく、とても穏やかである。穏やかななかに、ギターが小川であるところの自然の包容力といったものがあるように感じた。

国際フォーラムのホール「B5」。大会議室に毛がはえたような部屋で、相変わらず音響はよろしくない。
歌手にとってはなかなか難しい環境だったに違いない。
ただ、小さいところだったため、ギターの弱音もじゅうぶんに聴きとれるところはよかった。


2008年5月5日、東京国際フォーラム「ホールB5」

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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます~
変な時間にコメントです、爆

お熱の方はもう大丈夫でしょうか?
ちょっと前に連休中、肺炎で寝込んでいたことがありました。この時期、体調を崩しやすいですよね、お大事に~。

歌手の方は知りませんでしたが、ギターの鈴木大介さんは知っておりました、有名な方ですよね。
ピアノ伴奏だと、伴奏の音が大きいですから、少し声を張り上げないと行けないでしょうが、ギターは繊細な音ですから、本当に細やかな声で歌えるのでしょうね~。

シュライアーさん、プライさんをギター伴奏で聴きたかったですよね、きっと絶妙の声で聴かせてくれたのでは内かなって思ったりしています。
ラ・フォル・ジュルネ とは関係ないですが~(ディースカウさんだと、上手すぎて、ちょっと嫌みになるかも、爆~)。

シュベルトとギターというのは、相性が良いように思いますね~。このところ、シュベルトばかりで、自宅が、ラ・フォル・ジュルネです、爆~

ミ(`w´)彡 
2008.05.07 Wed 03:55 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

いつも早起きでらっしゃいますね。
私は朝が弱くていけません。
おかげさまで熱は下がって体調もよくなりました。
暖かくなったわりには、まわりでも風邪を引いているひとが多いみたいです。暖かい日が続くと、気が緩むのでしょうか。

この演奏会ですが、失礼ながらあまり期待していなかったのですが、いい演奏会でした。
鈴木大介は私も知っていました。クラシック番組のレギュラーでした。ですがギターを聴くのは今回が初めてだったような気がします。

シュライアーといえば、昔、たしかギターが伴奏の来日公演がありました。その頃はこの曲にたいして興味がなかったのですが、今思えばなんとぜいたくな公演だったのでしょう。聴いてみたかったものです。もうチャンスはないでしょうネ。
2008.05.07 12:55

無題 - sumito96

吉田さん、こんにちは。

鈴木さんのギター、気になっていた公演でした。
ほんのり甘口なギターの音色…聴いてみたかったです♪

今年は「ホールB5」に行きませんでしたが、「ホールB7」も音響的には同じようなものではなかったかなと思います。

でも演奏者が近くに感じられるのはいいですね。(前方の席を取れれば…ですが。。)
ラ・フォル・ジュルネ、お疲れ様でした!
2008.05.07 Wed 16:15 URL [ Edit ]

Re:sumito96さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

鈴木大介は、名前は知っていたのですが聴くのは今回が初めてでした。
ギター、とても良かったです。
機会があれば、ぜひ聴いてみたいと思います。

「ホールB7」はB5よりひとまわり大きいところでしたか。去年たしか行きました。
音響はちょっとつらいものがありますが、演奏者に近いところがいいところです。自由席なので、気合いれて並べば、いいことありますね。

また来年が楽しみです。
2008.05.07 22:06

無題 - neoros2019

5月5日だったか、NHK-FMで1日中シューベルト特集をやっていたような?
時代はモーツァルト、ベートーヴェンではなく「穏やかな混沌」を示すシューベルトではないか?なんて放送していました。
村上春樹は「海辺のカフカ」やその他の小説にてあえてピアノソナタを登場させる入れ込み様で、一つのソナタに15種類の演奏CDを収集するところまでいっているとのこと
今月22日にシューベルト狂の友人と再会する予定なんで、今から聴き込みを始めないと
2008.05.08 Thu 10:38 URL [ Edit ]

Re:neoros2019さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

>5月5日だったか、NHK-FMで1日中シューベルト特集をやっていたような?
5日か4日か定かでないのですが、ラ・フォル・ジュルネ特集をやっていましたね。交響曲の2番をやっていたのを聴きました。いい演奏でした。

村上春樹は、ソナタの17番に造詣が深いようです。「意味がなければスイングはない」の中で、このソナタについて語っていました。面白い読み物でした。あれを読んで、17番を聴き始めたものです。
2008.05.09 12:42
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