アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルクリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」を観る。
主人公は、朝鮮戦争の退役軍人で元フォードの工員である偏屈じじい。
トヨタのセールスをしている実の息子や、鼻にピアスをした孫娘には心を閉ざすが、隣に引っ越してきたマオ族にはだんだんと打ち解けていく。快活な娘に誘われたホームパーティでうまい飯をたらふくごちそうになったり、ひきこもり気味の少年に仕事を世話したり。このあたりの過程がじつにあたたかく描かれる。
でもその穏やかな日々は、隣人にちょっかいを出してくるギャングに破られる。小競り合いの末にむかえるラストの対決は、「ペイル・ライダー」や「許されざる者」を彷彿とさせるが、ここではじじい、よく我慢したなあ。
俳優としての出演はこの作品が最後だと公言しているイーストウッド、適役すぎる。床屋もサイコー。
プレヴィンが指揮をするベートーヴェンの交響曲を初めて聴いたが、この4番はすばらしい。
たっぷりとしたテンポでもって、ひとつひとつの楽器をとても丁寧に鳴らせている。頬ずりをして慈しんでいるよう。つややかで厚みのある弦楽器のうえで歌うフルートやクラリネット、そしてオーボエの、なんと幸福な響きであることか。
蒸し暑いうえに夕方から雷雨の日曜日。そんななかで冷房をキンキンに効かせた部屋で聴くこのベートーヴェンは、村上春樹風にいうならばまさに「小確幸」。小さいけれど、37分の確かなシアワセである。
プレヴィンはベートーヴェンの交響曲のなかでこの4番を得意にしているらしく、ニューヨークやウイーンの客演や日本公演でも演奏しているという。ただセッション録音として残されたのは、ロイヤル・フィルとのもののみである。
ちなみに、このコンビでのベートーヴェンのセッションは、2番、3番、9番を残して頓挫した。売れなかったのだろうか。4番がよかったので、ちょっと残念である。
1989年7月3-5日、ロンドン、ウォルサムストウ・アッセンブリー・ホールでの録音。
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