カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロスアンジェルス・フィルバスから見えた千曲川。橋がシブイ。
「アメリカのジュリーニ」6枚組。
星条旗をバックに、仕立ての良さそうなスーツを完璧に着こなすジュリーニ。ジャケットの絵柄は正直言ってあまり合うものではないと思うが、彼とロス・フィルとの組み合わせは最高だった。
ジュリーニが織りなす手厚いリードと、カラッと明快なオーケストラとが実によく合うのだ。
たっぷりとしたテンポを基調にした歌ごころ、副声部を浮き立たせることによってにじみ出る透明感、キリッとしまった縦の線、そして要所でぶちかますレガート。ややもすると重くなるドイツやオーストリアのオーケストラよりも、ロス・フィルやシカゴ響でこそ、ジュリーニの芸術は高次元で発揮できたノダ。
このアルバムに収録されている曲は、全てLPで聴いていたし何曲かはCDで買いなおしたが、こうしてまとめて出た以上、女房を質に入れてでも買うしかないだろう。
この「田園」は、発売当初は比較的穏やかに迎えられたと記憶する。要するに、さほど大きな評判にはならなかった。ときは、シカゴ響との「第九」シリーズがひと段落した頃。ロス・フィルに就任したニュースを知ったわれわれは浮かれていたので、ひとつひとつの評判はさほど気にならなかったな。
「田園」を改めて聴いてみると、とても精緻な演奏だと感じる。弦5部はあいまいさのない明確なもの。ゆっくりとしたテンポのなかで、フレーズの節目になにげなくテンポを変化させるところなんか、じつに繊細だ。弦に加えて、木管と金管も硬質で輪郭がはっきりしている。はっきりしているから技量をごまかせない。雰囲気や勢い重視の演奏とは一線を画した、計算され尽くした音楽である。ここには、硬くて明るい響きと、毅然とした佇まいがある。指揮者の作った台本に忠実なのだ。
ジュリーニ曰く、「アドリブは許さんぜよ」(ホントか?)。
まだまだ序の口。
1979年11月、ロス・アンジェルス、シュライン・オーディトリアムでの録音。
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