ブラームス 交響曲第1番 ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団島田雅彦の「酒道入門」を読む。
酒を呑むステージはいろいろある。家でひとり呑む酒、居酒屋で賑やかに呑む酒、ショットバーで静かに語り合う酒。そして、キャバクラでの酒。
『落ちないとわかっているキャバ嬢のために、一年で300万、400万と注ぎ込む男たちもいます』。
『たいていの男たちは「無理とわかってながらここまでやれるオレってどうよ」という自己満足の快感こそが励みになっているのです』。
『バカだなと笑われるような立場にあえて自分をもっていく。あえて失敗するようなことをやってみる。限りなく自虐に近い愚行の楽しみ』。
男が何故キャバクラに足を運ぶのかを、的確にあらわしている。
私も十何年か前にはまって散財したが、今思うと後悔よりも、愚行の楽しみの思い出のほうが強いのだ。
キャバクラとは遠く離れたところにある感がある、ベイヌムのブラームス。
男気あふれる硬派な演奏だ。
全曲で41分17秒は、この曲の録音史上でもトップクラスの速さだろう。筋肉質の響きがこのスピードによくあっていて、しばらく聴いていると、速さに対する違和感はまったくなくなる。
ブラームス独特の甘さや感傷を、可能な限り削り落としたようなスタイルなのに、じわじわと優しさが滲み出る。
それは特に2楽章。コンセルトヘボウのオーボエがとても端正であり、厳しくもあり、そしてカラッと明るい。ビターでほんのり甘い孤独の味わいだ。
キャバクラに行った後の虚しさを、包んでくれる演奏に違いない。
1958年9月、アムステルダムでの録音。
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