忍者ブログ

チェリビダッケのブラームス「交響曲第4番」

2009.10.31 - ブラームス

br

ブラームス 交響曲第4番 チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団


若松節朗監督の「沈まぬ太陽」を観る。
山崎豊子の原作は文庫で5冊の長尺だから、上映時間を3時間以上かけているといってもだいぶ端折るのではないかと想像したが、かなり原作に沿ったストーリーであった。
主人公は若い頃に労働組合の委員長として敏腕を振るったおかげで、10年近く海外の僻地で冷や飯を食わされる。家族が離散の危機にさらされてまで自分の意地を通すという大事な場面なのだが、あまりつらそうにはみえなかった。ことにテヘランとナイロビのシーンは町並みや高原がとても綺麗だし、食べ物もおいしそうだし、現地の人たちとも仲良くやっていたからである。それはまるで観光番組のようであり、逆に楽しそうにみえなくもなかったのである。
ただ、テヘランの空港で奥さんと子どもを見送るシーンは泣けた。
役者では渡辺謙(特に牛丼をかっこむところ)、三浦友和と石坂浩二がいい。抑えた演技が重厚。山田辰夫の生活感の濃い演技は印象的で、上川隆也はほんのチョイ役だがおいしすぎる。
長いこと映画化不可能といわれたらしいが、その理由は御巣鷹山の惨状を描く難しさというよりも、主に日本航空からの圧力によるものではないかと踏んでいる。


チェリビダッケのブラームスの四番といえば、FMで聴いたミュンヘンとの来日公演を思い出す。
かなり遅いテンポでもって浮き世ばなれした世界を描いていて、とても印象に残っている。怒濤のフィナーレは感動的で、それまで聴いたなかではマゼールやバルビローリに匹敵する演奏だと感じたものだった。
もっとも、マゼールとクリーブランドのブラームスをいいなんて人はそう多くないと思うので説得力はないかな。ともかくいい演奏であった。

さて、今回聴いたのはシュツットガルトとのもの。ミュンヘンとの来日公演より10年ほど前の記録。
チェリビダッケのスタイルは、歳を経るほどテンポが遅くなるものだった。よって、この演奏は以前に感動したときに比べると速いテンポでスッキリしているのじゃないかと予想した。
実際タイムをみると42分強。50分近くかけた来日公演より速いのはもちろん、バルビローリよりも短い。
聴き始めるとすぐにわかるが、かなり頻繁に咳のような雑音が聞こえる。マイクに近い音なのでこれはおそらく指揮者の口から発する音であろう。チェリビダッケ流と言えるが、この演奏に関してはけっこう耳障りだ。3楽章以外はまんべんなく聞こえるため、じわじわとボディーブローが効いてくる。けっこうキツい。この指揮者を聴くためには避けて通ることができないものなのか。
そういったハンデはあるものの、演奏そのものはいい。スッキリと見通しがよく、アンサンブルはデリケートで精妙、それに加えてダイナミックも十分。ミュンヘンとのものは、悠揚迫らざる歩みの立派さに感動を覚えたが、この演奏はテンポがまっとうであることに加えて、細部の綿密な彫刻に成功している。音の造りは弦を主体にしている。ぴったりと揃った弦は、緩やかな弾力に富んでいてガラス細工のように繊細だ。うねるような起伏の大きさもある。速くて激しい部分における金管とティンパニの強力な鳴りっぷりは気持ちがいい。
ことに素晴らしいのが3楽章の冒頭。ティンパニと弦と金管が絶妙にブレンドされた音色は輝かしくも深みがあり、この箇所だけでも聴く価値は大いにある。

1974年3月23日、ヴィースバーデンでの録音。
PR
   Comment(2)   TrackBack()    ▲ENTRY-TOP

Comment

無題 - neoros2019

1974年75年
このころのチェリビダッケといえば、FM放送のライブでしか聴くことのできないシロモノでした
高校時代エアチェックしたような気がします
まさにブラームス
オケはどこだったろう?
絹糸の繊維をひくような繊細さにうなったと覚えがあります
晩年のガスタイク・ライブとは雰囲気の違う音楽創りが印象にあります
2009.11.02 Mon 17:57 [ Edit ]

Re:neoros2019さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

一時期のチェリビダッケはFM放送のライブでしか聴くことができなかったですね。70年代後半にエアチェックしたベートーヴェンはまったく独特の演奏でビックリしたものです。
このブラームスはCDで初めて聴きましたが、後のミュンヘンとのものより速め(まっとうな)で、しかもチェリビダッケならではの繊細な音響世界があるように感じました。
2009.11.02 21:45

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

「沈まぬ太陽」もう観られましたか、早いですね〜。
山崎豊子さんがあるインタビューで「他の小説は映画化、ドラマ化できるが、これはできないと思っていた」と言っておられました。私もJALからのクレームがあるからだろうと思っていました。ですが、JALの現状ではそんなクレームを付ける元気もないのではないかと思います。

チェリビダッケの演奏、「展覧会の絵」しか聴いたことがありません。あまりの遅さに驚いてしまいましたが〜。あの遅さで演奏できるオケストラは上手いなと思ったのですが〜。割りと評判の良いブルックナーも聴いていませんので、ブラームスも聴いていません。
これからです、残されている時間は上手く使いたいものですが〜。

ミ(`w´彡)
2009.11.02 Mon 18:04 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

いつもコメントをありがとうございます。

10月末までしか使えない招待券を貰ったので急遽観にいきました。原作に忠実な映画ですが演出にはさして新味はなかったように思います。
ただ、配役が豪華で飽きずに観ることができました。

チェリビダッケの演奏はミュンヘンとのものがEMIから大量に出ていますね。なかではブルックナーが大好物です。
ブラームスに関しては、シュトゥットガルトとのもののほうがよいように思います。テンポといい音色といい、どこをとっても素晴らしい。
ただ、チェリビダッケのうなり声は、ちと閉口です。
2009.11.02 21:51
コメントタイトル:
投稿者名:
Mail:
URL:
投稿内容:
Password: ※1
Secret: 管理者にだけ表示を許可する※2
※1 パスワードを設定するとご自分が投稿した記事を編集することができます。
※2 チェックを入れると管理者のみが見ることのできるメッセージが送れます。

TrackBack

この記事へのトラックバック
TrackBackURL
  →
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
ポチっとお願いします(´_`\)  ↓ ↓ ↓
最新コメント
カッチェン、フロマン、ブラームス"ピアノ協奏曲2番" from:Yoshimi
-11/16(Thu) -
フルニエ、フィルクスニー、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-03/18(Sat) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:老究の散策クラシック限定篇
-02/20(Mon) -
ゼルキン、オーマンディ、ブラームス"1番" from:“スケルツォ倶楽部”発起人
-02/20(Mon) -
古典四重奏団、ベートーヴェン、15,13"大フーガ" from:老究の散策クラシック限定篇
-10/30(Sun) -
最新TB
カテゴリー