ブラームス 交響曲第4番 チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団若松節朗監督の「沈まぬ太陽」を観る。
山崎豊子の原作は文庫で5冊の長尺だから、上映時間を3時間以上かけているといってもだいぶ端折るのではないかと想像したが、かなり原作に沿ったストーリーであった。
主人公は若い頃に労働組合の委員長として敏腕を振るったおかげで、10年近く海外の僻地で冷や飯を食わされる。家族が離散の危機にさらされてまで自分の意地を通すという大事な場面なのだが、あまりつらそうにはみえなかった。ことにテヘランとナイロビのシーンは町並みや高原がとても綺麗だし、食べ物もおいしそうだし、現地の人たちとも仲良くやっていたからである。それはまるで観光番組のようであり、逆に楽しそうにみえなくもなかったのである。
ただ、テヘランの空港で奥さんと子どもを見送るシーンは泣けた。
役者では渡辺謙(特に牛丼をかっこむところ)、三浦友和と石坂浩二がいい。抑えた演技が重厚。山田辰夫の生活感の濃い演技は印象的で、上川隆也はほんのチョイ役だがおいしすぎる。
長いこと映画化不可能といわれたらしいが、その理由は御巣鷹山の惨状を描く難しさというよりも、主に日本航空からの圧力によるものではないかと踏んでいる。
チェリビダッケのブラームスの四番といえば、FMで聴いたミュンヘンとの来日公演を思い出す。
かなり遅いテンポでもって浮き世ばなれした世界を描いていて、とても印象に残っている。怒濤のフィナーレは感動的で、それまで聴いたなかではマゼールやバルビローリに匹敵する演奏だと感じたものだった。
もっとも、マゼールとクリーブランドのブラームスをいいなんて人はそう多くないと思うので説得力はないかな。ともかくいい演奏であった。
さて、今回聴いたのはシュツットガルトとのもの。ミュンヘンとの来日公演より10年ほど前の記録。
チェリビダッケのスタイルは、歳を経るほどテンポが遅くなるものだった。よって、この演奏は以前に感動したときに比べると速いテンポでスッキリしているのじゃないかと予想した。
実際タイムをみると42分強。50分近くかけた来日公演より速いのはもちろん、バルビローリよりも短い。
聴き始めるとすぐにわかるが、かなり頻繁に咳のような雑音が聞こえる。マイクに近い音なのでこれはおそらく指揮者の口から発する音であろう。チェリビダッケ流と言えるが、この演奏に関してはけっこう耳障りだ。3楽章以外はまんべんなく聞こえるため、じわじわとボディーブローが効いてくる。けっこうキツい。この指揮者を聴くためには避けて通ることができないものなのか。
そういったハンデはあるものの、演奏そのものはいい。スッキリと見通しがよく、アンサンブルはデリケートで精妙、それに加えてダイナミックも十分。ミュンヘンとのものは、悠揚迫らざる歩みの立派さに感動を覚えたが、この演奏はテンポがまっとうであることに加えて、細部の綿密な彫刻に成功している。音の造りは弦を主体にしている。ぴったりと揃った弦は、緩やかな弾力に富んでいてガラス細工のように繊細だ。うねるような起伏の大きさもある。速くて激しい部分における金管とティンパニの強力な鳴りっぷりは気持ちがいい。
ことに素晴らしいのが3楽章の冒頭。ティンパニと弦と金管が絶妙にブレンドされた音色は輝かしくも深みがあり、この箇所だけでも聴く価値は大いにある。
1974年3月23日、ヴィースバーデンでの録音。
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