リヒテル(ピアノ) マタチッチ指揮モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団高橋秀実の「やせれば美人」を読む。
「デブ」な妻と夫のダイエット奮闘記。
やせたい。毎日走れば、絶対に痩せることはわかっている。でもつらいのはヤダ。かくして、ダイエット商品は世にはびこる。
著者独特の、一歩引いた目線がダイエット市場を冷静に分析する。
多くのダイエット商品の広告は、購入した顧客の体験談で構成されている。販売者が「これはやせる」と言うためには、薬事法に従って厚労省の厳しい認可を得なければならないらしい。その許可をもらうのは大変なので、販売者はものを言わないかわりに、使った人たちが勝手に「やせた」といって喜んでいる、ということにすればいいわけだ。
しかもその体験談は、スタッフが書いているとのこと。
ひどい話である。
ワタシはダイエットをしたことはないが、こうすればいいのじゃないかと思うことがひとつある。
それは、毎日二日酔いになることである。
晩飯のときは、小さなつまみを中心にひたすら酒を飲んで寝る。翌日は気持ち悪くて夜までろくに食べられない。だからじょじょに痩せていく。
これなら、好きな食べ物をお酒と一緒に、抑制しないでおいしく食べられるではないか。
だめだろうか。
だめだよね。
リヒテルとマタチッチによるシューマンを実に久々に聴いた。リヒテルのピアノの魅力は、重量感のあるパンチ力。それに加えて、肌理の細かさと、ドクドクと血の通う暖かさがあることじゃないかと思う。それはこの協奏曲の両端楽章でじゅうぶんに満喫できる。
聴きどころはまず1楽章。ペダルを踏み込む音とタッチの野太さが相俟って、ドスがきいている。と思いつつ聴き進めると、ピアニシモの部分ではまるまると輝く真珠のような音がそっと耳に入ってくる。硬軟おりまぜたコントラストが忙しくもすばらしい。
マタチッチも気合いじゅうぶんであって、いまにも鼻血が出そうな勢い。最初の合奏を始めとして、木管とホルンを前面に浮き立たせている。ブカブカと気持ちいい。立体感がありながら鄙びた響きを醸し出していてなんとも面白い。ラストでは低弦をゴリゴリいわせりしているし、全体を通して色彩と肌触りなオーケストラであり、ごついピアノにきちんと対抗している。
迫力満点でありつつ、なんだかユーモラスな雰囲気をも醸し出しているのはどこからくるものだろうか。
録音はややモヤモヤしている。もっと鮮明であったならば演奏はより輝いていたかもしれない。もしくは、この録音だからこその風味だったか。リヒテルのEMI録音にはこういうのが多いから、自伝で自分の録音をこき下ろすのかもしれないな。
あたかも、高倉健と鶴田浩二のコンビみたいに渋く輝く大人のシューマンである。
リヒテルのシューマンはロヴィツキとの演奏を最近に聴いたが、こちらのほうが濃厚である。この演奏のよさ、中学時代にはわからなかった。
1974年11月25-30日、モンテ・カルロでの録音
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