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マゼールのマーラー「交響曲第9番」

2007.07.28 - マーラー
maazel

マーラー 交響曲第9,10番 マゼール指揮 ウイーン・フィル


昭和残侠伝シリーズ「吼えろ唐獅子」を観る。シリーズ後半だからか、内容はいささかマンネリ感がある上に、最近の高倉を予感させる寡黙ぶりが目立つ。とはいえ、このヒトの絵柄というものは他に代えがたいものがあり、登場するだけで画面がピッと引き立つのだ。共演の池部良はいつも通りに悲しみを湛えた剣客ぶりを見せてくれるし、あとなんといっても鶴田浩二の貫禄がすばらしく、この3人を見るだけでもこの映画の価値はある。
準主役を務めた松方弘樹は、この3人のなかにはいってしまうと、ただのチンピラにみえるのが気の毒だ。


マゼールのマーラーは久しぶり。今までに聴いたものは、フランス国立管との1番と、ウイーン・フィルとの3、4、5、7番、「亡き子を偲ぶ歌」といったところで、どれも楽器をよく鳴らせた演奏という印象がある。
この第9は彼の全集のなかでも割と評判が良かったもので、前から聴いてみたかった。
第1楽章は、冒頭からメリハリがはっきりとついている。演奏によってはとても幽玄な雰囲気を醸し出す部分であるが、マゼールの手にかかると、やたらとプラグマティックだ。ウイーン・フィルの音は滋味あふれたものであるので、そのアンバランス感がなんともいえない。テンポは遅く、感情のこもらないニヒルな演奏でもある。
最初の楽章が遅かったから、2楽章は速く感じる。でもおそらく中くらいのテンポだ。ここでも楽器はよく鳴っている。日本的な表現のひとつとして「ワビ、サビ」というものがあるけれど、この演奏にそういう曖昧な感覚はなく、デジタル的な割り切りの良さがある。
ロンド・ブルレスケもまた同様で、ここにはオーケストラを聴く快感がある。1楽章の無表情さに比べると、だいぶ興に乗ってきたような感じ。ティンパニは皮がやぶれるんじゃないか。最後にアッチェレランドをかけていて、キラリと光るピッコロがとても効果的。見得を切るマゼールの成功例。
そういったケレン味が終楽章でも発揮されるのかと思いきや、ここは正攻法である。この曲ではなんといっても弦が主役であるから、ウイーン・フィルの持ち味が生きやすいわけだが、深いコクのある響きを出すのに成功している。同種の場面として、第3の終楽章があるが、それに匹敵する完成度である。
全体的に、マゼールの指揮からはマーラーに対する思い入れはあまり感じられない。彼のプラグマ的な視点と、ウイーン・フィルのアナログ的弾き方とのギャップが面白い演奏だと思う。
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Comment

無題 - ruiros2019

評論家:吉井亜彦と脇田真佐夫が1970年当時激賞していたロリン・マゼールについて一言触れさせて下さい。
1959年ベルリン放響の「火の鳥」あたりからちょうど1973年クリーブランド管へ赴任してプロコフィエフのロメオまでのマゼールは怖ろしいぐらいアナーキーな光を放っていました。
ベルリンドイツオペラとの椿姫、カルメン全曲、ウィーンフィルとのチャイコ全曲、マンフレッドやシベリウス全曲、NPOとのシェラザードやボレロ、リヒテル/パリ管とのブラームスピアノコンチェルト、フィリップス時代のバッハやヘンデルどれもこれも夢中になって買い集めていたものです。
クリーブランドとの幻想やデッカでいれたブラームスのシンフォニーあたりからガラッと芸風が落ち着いてしまったんですよね。唯一‘78年にデッカにいれたベルリオーズのレクイエムは今でも聴きますが。           わたしもウィーンフィルとの9/10番は買った覚えがあります。できれば火薬の香り漂う60年代末のマゼールにマーラーの主要シンフォニーは全て録音してもらいたかった。
2007.08.01 Wed 22:45 [ Edit ]

Re:ruiros2019さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメント、ありがとうございます。
吉井亜彦はマゼールを高く評価していますね。私も影響を受けました。
彼の全盛期はいつか、という議論については、今のところ初期を取る方が多いようで、私もクリーヴランド時代までの活動については、とてもユニークで才気煥発だったと思います。
このオーケストラとの演奏であれば、シェエラザードやブラームスの第4交響曲、イタリアのハロルドなどを気に入っています。ああいう演奏は他の誰もやらないという点で、優れている上に斬新ではないかと思います。
2007.08.03 12:54

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

マーラーの9番、この頃、レヴァイン、バーンスタイン盤を聴いています。マゼール盤は未だに聴いたことはありません。マゼールって不思議な指揮者ですよね。オケストラを掌握する能力は非常に高いですよね。ですが、それほど人気が出るわけでもないんですよね。不思議です。プラグマなんでしょうか。

唐獅子牡丹、懐かしいですね、私は、やっぱり、鶴田浩二でしょうか、ああいう格好の良い映画は、もうないでしょうね~
ミ(`w´彡)
2007.08.01 Wed 23:21 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメント、ありがとうございます。
マーラーの9番はたくさんCDが出ていて名演といわれるものが少なくありませんね。
レヴァイン盤をまだ聴いていないので、いつか挑戦したいのです。マゼール盤はなかなか面白い演奏でした。技術的にはもちろんきちんとやる人ですが、プラスアルファが(ハマれば)なんともユニークで面白いものです。

鶴田浩二、いいですね。ああいう大人になりたいと思います。ハードルが高すぎるかも知れません(笑)。
2007.08.03 12:58
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