勝間和代と香山リカの「勝間さん、努力で幸せになれますか」を読む。
これはふたりの対談本。副題に「不幸せにはワケがある 不安時代の幸福論」とある。
全体を通して、「成功者としてのアイコン」としての勝間に対し、香山が努力が嫌いな凡人はどう生きればいいのかを質問する、といった流れで構成されている。
ツッコミどころは満載であるいっぽうで、深くうなづくところも多い。
勝間は、人から「ありがとう」と言われるときが幸せであるという。それは仕事を含めた利他的な行為のご褒美である。同感。ではこの利他的な行為はどうしたらできるのか。彼女は「教育」であると断言する。
私は、人に手を差しのべる行為は、ア・プリオリ(先天的)なものが大きいと考えている。カントもそう言っている。ただ、そうした素養を広く育てるには、教育は欠かせないのかもしれない。
香山は凡人を代表する役割をになっているが、自己卑下しすぎ。いささか嫌味だ。
ナットのピアノで、ベートーヴェンの「創作主題による32の変奏曲」を聴く。
この曲は1806年に作曲された。ハ短調。中期の作品においてこの調性で有名なのは、3番ピアノコンチェルト、5番シンフォニーがある。どちらもなかなかイカつい。
間然するところのない音楽である。全体を通して、非常に厳しい。いわゆる「ベートーヴェンの中期」が凝縮されたような音楽と言える。堅苦しいし暑苦しい。堅苦しさで言うと後期の同じ変奏曲の「ディアベリ」以上であろう。でも、じっと耳を傾ければ心打たれないではいられない。
ナットは揺るぎのないテクニックとのっぴきならない緊張感とをもってこの曲を弾き切っている。音は丁寧にひとつひとつがほぐれており、光沢がある。フォルテッシモはとても強く、かつ音が割れない。重厚な低音から、まろやかな高音まで芯のしっかりした音を紡いでおり、自然な抑揚がある。
この演奏では全曲で10分足らずであるが、とても密度が濃いため、小品というにはなんだか憚られる。
1955年11月、パリ、Salle Adyarでの録音。
夜。
在庫がなく、ご迷惑をおかけします。
6月上旬に重版できる予定です。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR