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ミルシテインとラインスドルフのベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」

2011.02.06 - ベートーヴェン
   
Milstein

ナタン・ミルシテイン(Vn) エーリッヒ・ラインスドルフ指揮フィルハーモニア管弦楽団


宮本文昭の「疾風怒濤のクラシック案内」は、小難しい楽典や過度な思い入れを排して、著者が体験したエピソードを中心にしたわかりやすい入門書。ドイツ留学時代にテレビでケンプのモーツァルトを観て感激したり、自分のオケに客演したマルケヴィチから持参したレコードにサインをしてもらったなんてエピソードは、読んでいて心が温まる。
著者は長らくドイツのオーケストラの首席を務めていたから、技術的な話やスキャンダラスな話をしようと思えば、いくらでも面白おかしくできたのだろうけど、あえてそういう書き方はしていない。あくまで初心者目線で、クラシック音楽への思い入れを語っている。それが清々しい。きっと、性格がいいのだろう。

宮本文昭はベートーヴェンのことをこう語っている。
「オーケストラの中でオーボエを吹いていた僕ですら、『すっごい退屈な人間だったんだろうなぁ』と、ついつい思ってしまうんですから、あまりクラシックに親しんでいない人が聴いて眠くなちゃうのは当然です」。
その栄誉を、後期の弦楽四重奏やピアノ・ソナタを差し置いて、このヴァイオリン協奏曲にあげたい。なにしろ40分を超える大曲であるし、その構成は緻密にして厳格。ヴァイオリンの効果も質実剛健というか、はっきり言えば地味であり、要するに聴き手に対する色目使いは皆無なのである。サスガである。
そういう曲だから、美よりも精神性を重視、それはまるで音楽喫茶で額にシワを寄せながらむさぼるように聴く、といった戦後の風景をイメージしてしまうのだ。
ミルシテインのこの演奏は1961年の録音だから、もしかしたらそうやって聴かれたこともあるのかもしれない。でも、今パソコンを開きながら聴くミルシテインは、実にモダンだ。モダンというより、時空を超えているといったほうが精確に近いかもしれない。夾雑物のいっさい入らない音は、雪山の空気のようにキーンと澄み渡っていて、文句なく美しい。音楽においての精神性とはなんぞや。なんとも難しい。言葉にした途端にまるでわかっちゃいないことがバレてしまうのでウカツに言えないが、この演奏に便乗してこっそり言うならば、この音がもう精神ですよ。ミルシテインが精魂込めて練り上げた、このヴァイオリンの音そのものが解釈なのですなあ。美音がまき散らされたベートーヴェン、この曲にしては退屈度が低い。
ラインスドルフのオーケストラは、小回りがピリっと効いて堅実。中間楽章の木管楽器が、悲しげないい味を出している。


1961年6月、ロンドン、キングズウェイ・ホールでの録音。
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