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マゼールのベートーヴェン「交響曲第9番"合唱"」

2010.05.23 - ベートーヴェン
  
sc

マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団


マゼールの第9は、すみずみまで精緻に磨きあげられた演奏。そのうえ気合いがじゅうぶんなことは、冒頭から伝わってくる。
この曲の演奏でよく聴かれる重厚さを丁寧に抑えて、明晰さを際立たせている。弦の刻みがハッキリとしているところ、そしてフルートとクラリネットを前面に浮き立たせたところ、ことにファゴットがこんなに聞こえる演奏はそうないだろう。
2楽章もいい。粒だつティンパニといきり立つヴァイオリンのピチカートがはち切れんばかりにいきいきしている。広がりと深さをもつ残響が素晴らしい。
3楽章も細やかだ。弦の動きが俊敏。そのうえで踊る木管の存在感は大きいし、ここでもフルートは冴えている。
演奏は終楽章に入ってますますテンションは上がる。4人の歌手による歌は、浮世の雑事からすっかり解放されたように元気いっぱい。ここで運動会が繰り広げられているかのよう。声は大きくハッキリしていて影がなく、すみずみまで歌い切ったところはスポーツのようでもある。ことにタルヴェラは雄弁。
合唱はやや薄いが、ここも息が切れるほどまで歌い切っているところは痛快。この曲の祝祭的な雰囲気を前面に押し出している。
クリーブランドの技量の高さは、いまさらなにかを付け加えるまでもない。ラストで飛び散るピッコロの軽やかさは証のひとつ。
このオケに関しては、マゼールやドホナーニを飛び越えてセルの評判ばかりがいつも高いが、この第9の演奏はマゼールのほうを気に入った。名演である。

ところで、「ベートーヴェン」「第九」「マゼール」でググると、インマゼールのCDがトップにきたのでずっこけた。この演奏の知名度とSEOは比例しているようだ。いやはやなんとも。


ルチア・ポップ(S)
エレナ・オブラスツォワ(M)
ジョン・ヴィッカース(T)
マルッティ・タルヴェラ(B)
クリーヴランド管弦楽団&合唱団

1978年10月13-15日、クリーブランド、メイソニック・オーディトリアムでの録音。



sc

どこに呑みに行くか検討中。

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Comment

無題 - rudolf2006

吉田さま お早うございます〜

いつも面白そうな演奏を探してこられますね〜
マゼール、面白いというか、変わったというか、謎を含んだ指揮者ですよね、作曲もやっているようですが〜。

この第9も面白そうですね、ソリストも協力ですし〜。
ぜひ聴いてみたいと思っています

ミ(`w´彡)
2010.05.24 Mon 08:24 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、おはようございます。 - 管理人:芳野達司

マゼールのベートーヴェンは前から気になっていました。全部廃盤なのだろうと思いこみつつ十数年。HMVサイトを眺めていたら、第九を発見しました。
これは、大当たりでございます。
ベートーヴェンの管弦楽の妙を味わうことができます。
ソリストもビックネームばかりで…一緒に飲み明かしたいものです^^
2010.05.25 12:45

無題 - neoros2019

この時期のマゼールはわたしとしては微妙です
`75~`77のクリーブランドとの幻想やショスタコの5番にははっきりいって幻滅しました
しかし`77のベルリオーズのレクィエムはやはりこの曲の決定盤のように感じます
意外ですが宇野氏がこのマゼールのこの全集をベートーヴェンの現代様式のひとつの見識だろうと評論していましたし`77のVPOとのチャイコフスキーの組曲などオーケストラのあるべき理想的な姿とまで断じていました
わたしもこの全集は狙っているのですが未だに聴く機会を持てないままでいます
「一度は聴く価値のある箱庭的な現代演奏」と聞くとますますその気持ちは募ります
2010.05.24 Mon 10:47 [ Edit ]

Re:neoros2019さん、おはようございます。 - 管理人:芳野達司

ご指摘のクリーブランドとの幻想は聴きました。CBSとテラークの2種、いずれもイマひとつですね。同じベルリオーズなら「ハロルド」は鮮烈な名演奏なのに。ムラがあります。
「レクイエム」LP時代から気にしてはいましたが、まだ聴いていません。決定盤とのご評価、聴いてみたいものです。

>「一度は聴く価値のある箱庭的な現代演奏」
なるほど、この第九についていえば、スケールの広がりよりもディテイルの掘り下げにこだわっているところから、箱庭的といえるかもしれません。
2010.05.25 12:52

無題 - Yuniko

こんばんは、初コメです。
マゼールの第9は私も愛聴していましたよ。LP発売日に、ちょうど台風が来ていましたが、ものともせずに自転車で買いに行ったのが懐かしい思い出です。当時、中3でした、
でも愛聴していたこのLP、レコード芸術月評では大木正興が「美しさの窓が孤立している」などと訳の分からない表現でケッタクソにけなしていたし、ステレオ芸術月評でも岡俊雄・小林利之・高橋英郎の3氏が「聞き手に対決を迫る聞きにくい第9」「これから出て来るだろうアバドやレヴァインのベートーヴェンと比べると、すぐに古くさくなってしまうだろう」とやはり貶していました。
クラシック好きの友人からも「レコ芸でもステ芸でもけなされてるから大したことないんだ」と言われ、落ち込んだものでしたよ(笑)。
今聴き直すと、晴朗でさわやかな演奏で、数ある第9演奏の中でも、異色の存在感を放っていると思います。
マゼール&クリーヴランド管のベートーヴェン交響曲全集も同様に愛聴していますが、やはりマゼールのベートーヴェンと言えば昨年末の全交響曲連続演奏が、今そこにベートーヴェンが降臨して獅子吼しているかのような超絶演奏でした。スカパーで何度か放送されるようですが、パッケージ化されないかと熱望しています。
ところで・・・ブログ最後のマゼールとソリストたちのPhoto、貴重なPhotoを所有しておられますね。左からオブラスツォワ、タルヴェラ、ポップ、マゼール、ヴィッカースですね。
2011.02.27 Sun 00:09 [ Edit ]

Re:Yunikoさん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

はじめまして。
マゼールの第9を台風のなか自転車で。それは忘れられませんね。
あまり正確には覚えていないのですが、発売当初の評判は、たしかにあまりいいものではなかったと記憶します。
結局、このCDを聴いたのは、それから30年を待つことになってしまいました。ディテイルへのこだわりと、構造の明解な屹立とが両立した非常に完成度の高い名演であると思います。

昨年末の全交響曲連続演奏とは、東京文化会館でのアレですね。ほんの少しだけネットで聴きました。超絶演奏なのですね。聴いてみたいですねえ。

最後のPhotoは、ライナーノーツに載っていたものです。いいアングルなので携帯で撮りました。
2011.02.27 17:00
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