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"古典をめぐりて"、ショルティ、"マタイ受難曲"

2014.09.07 - バッハ


so



小林秀雄の対話集「直感を磨くもの」から、折口信夫との対話「古典をめぐりて」を読む。

小林と折口とでは折口が15歳年長だが、この対話では小林が折口に鋭い舌鋒を浴びせ、折口はおそるおそる慎重な態度で対話に臨んでいる。
折口は柳田國男の弟子であり、小林は柳田を虐めたことがあるらしく(この後の大岡昇平との対話でそれが明らかにされる)、そのせいもあり小林に対して警戒をしているのかもしれない。

小林「要するに書道というものの文化史的な価値というものがわからなくなって来た事は、文学の鑑賞の上でも大変違った事になるでしょう。「古今集」の詩人は字の美しさと歌の美しさと恋愛行為と皆一緒にして歌というものを考えていた。今では岩波文庫で「古今集」を読みます。全然違ったものを読んでおる事になる・・・・」
折口「そうは考えないでもないが、分解してふれて行くのが安易な道なので・・・・総合して感受する筈の人でも、やっぱり切り放して言をいう・・・・」

話は軽快ではない。








ショルティの指揮でバッハ「マタイ受難曲」を聴く。
これは折り目正しい演奏。

冒頭の合唱は女声が前面に立つ。声がすすり泣いているように濡れている。ビルモス・ジグモントが撮影監督を務めたマイケル・チミノ作品「ディア・ハンター」において、デ・ニーロを始めとする出演者の目が濡れている、と評した人がいたが、それを想起させる。イエスの悲劇が、この合唱に詰まっているといったら穿ちすぎか。
シカゴ交響楽団の合唱団はヒリスによってよく訓練されている。「メサイア」を始め、マーラーの「復活」、そしてこのマタイ。精緻にしてなめらか、少しひんやりしているところは交響楽団の弦楽器の色合いに似ている。

歌手はみんないい。
ブロホヴィッツの福音史家は端正で凛々しい。若々しく透明感のある声が直線的に響く。ここぞというときは激情を隠さないが、音楽のフォームは崩さない。
ベーアはデビュー当初、F=ディースカウの後継者として大きな期待を背負った。このイエスでは、声をずり上げるところがディースカウにとても似ていてハッとする部分がある。淡々としていながらも悲しみのヴェールが薄くかけられた歌唱は素晴らしい。
カナワもよくコントロールしている。声のよさは当たり前で、それに加えてつつましく抑制された感情表現が、演奏全体の堅牢なスタイルに溶け込んでいる。オッターも同様。ショルティの端正な枠組みにキッチリとはまりつつも、声の力で役柄を引き立たせている。彼女の声はいささか暗いので、あまりいい印象がなかったが、ここでの歌唱はとてもいい。参った。

シカゴの音色は明るくて軽やかでしっとりしている。個人技はヴァイオリン、フルート、オーボエと当然のことながら質が高い。ショルティは中庸なテンポでもってしっかりと地に足をつけるように音楽を進行する。全体を通して大げさな身ぶりは皆無であるので「バラバ!」の叫びは恐ろしく効果的。

西洋近代音楽を知り尽くしたゲオルク・ショルティという男の、これは集大成とも言うべき演奏。


ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(T:福音史家)
オラフ・ベーア(Br:イエス)
キリ・テ・カナワ(S)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(A)
アンソニー・ロルフ・ジョンソン(T)
トム・クラウセ(Bs)
リチャード・コーン(Bs)
パトリース・ミカエルス(S)
デボラ・オースティン(A)
ウィリアム・ワトソン(T)
シカゴ交響楽団・合唱団(合唱指揮:マーガレット・ヒリス)


1987年3月、シカゴ、オーケストラ・ホールでの録音。




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so

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