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"罪と罰(下巻)"、シェリング、チャイコフスキー"ヴァイオリン協奏曲"

2016.09.21 - チャイコフスキー

ma

 

ドストエフスキー(工藤精一郎訳)の「罪と罰」(下巻)を読む。

上巻の感想は以下の通り。


「老婆を殺し、その金を奪うがいい、ただしそのあとでその金をつかって全人類と公共の福祉に奉仕する。どうかね、何千という善行によって一つのごみみたいな罪が消されると思うかね? 一つの生命を消すことによって -数千の生命が腐敗と堕落から救われる。一つの死と百の生命の交代- こんなことは算術の計算をするまでもなく明らかじゃないか!」


この作品を読むのは、昨年以来3度目。「罪と罰」は、主人公の苦悩の率直さと、登場人物が端的に描かれているという点で、「カラマーゾフの兄弟」よりも好きな作品。「白痴」は学生時代に読んでとても深い感銘を受けたけれど、舞台設定がやや特殊なので今読んだらどうかしら。もう一度読んでみたいとは思うけれど。「悪霊」は正直言って、よくわからなかった。

昨年に読んだのは亀山郁夫の新訳。これは、賛否両論あるようだが、こうして比較して読むと、亀山訳はディテイルをしつこいくらいによく掘り下げており、これはこれで一興だと感じた。

さて工藤の訳、新しいものかと思っていたが、1987年初版という。学生時代に読んだのはやはり新潮文庫であったから、米川正夫だったと思う。工藤は、米川の次の世代にあたるものだろう。
亀山訳に比べると、流れがよく、淡々としていて、あっさりしていて、読みやすい。細かいところに拘泥しないで、全体を大づかみにしている。ラスコーリニコフの苦悩が、客観的に眺められる、と感じた。

上巻は、ラスコーリニコフが予審判事のポルフィーリイに、自分が過去に発表した論文の説明をしたところまで。この論文は「一つの微細な罪悪は百の善行に償われる」という理論を展開したもの。ポルフィーリイの追い込みは後のアメリカのドラマ「刑事コロンボ」のそれを思わせる。最初から犯人をわかっているくせに、トボけたふりをして犯人をだんだんと追いつめる。ただ、コロンボみたいにいやらしくならないのは、ポルフィーリイの繊細な知性がモノをいっているからか。
このあたりの舌戦は、下巻においても繰り広げられる。本作品の最大の読みどころのひとつである。

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「いますぐ外へ行って、十字路に立ち、ひざまずいて、あなたがけがした大地に接吻しなさい、それから世界中の人々に対して、四方に向かっておじぎをして、大声で≪わたしが殺しました!≫というのです。そしたら神さまがあなたに生命を授けてくださるでしょう」


予審判事ポルフィーリイは、彼の計画を完全に見破った。家に赴き、自首を促す。けれどもラスコーリニコフはのらりくらりとして応じない。いっぽう、ラスコーリニコフの妹のドゥーニャと関係を持とうとした金持ちでニヒリストのスヴィドリガイロフは、彼女に拒絶され、広場で拳銃自殺する。
不安のまま警察に出頭したラスコーリニコフは、警官からスヴィドリガイロフの件を聞いて驚愕する。スヴィドリガイロフも、彼の罪を知っていた。ラスコーリニコフは自らの罪を告白する。
第6部は、ここで終わっている。

そしてエピローグでは、シベリアに流刑になったラスコーリニコフが描かれる。
ここからは前回に読んだときにも思ったこと。面白い、というか唖然とするのは、シベリアまでソーニャがついてきて、ことあるごとにラスコーリニコフに会いに来ること。それが高じて、彼女は他の囚人とも仲がよくなるのだ。
当時のロシアの刑務所は、恋人と頻繁に会えるほど自由なのか?
そのあたりを、実に淡々と、いかにも普通だというように描かれているので、違和感を感じないわけにいかない。

作品は全体を通して、前半のほうが緊張感が高く密度も濃いように思量。そして、エピローグは必要だったのか、少し疑問に思うのである。








シェリングのヴァイオリン、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴く(1959年2月、ボストン、シンフォニー・ホールでの録音)。


シェリングのチャイコフスキー、1970年代にハイティンクとやったものは聴いていたが、これは初めて。いつもノーブルな音を聴かせるシェリングがやはりここにいて、しかもはじけるように若々しい。
テンポは全体的に中庸だが、ところどころ小さな変化をしている。それはいたって自然。激しいパッセージは、ミルシテインやハイフェッツほどではないにしろ難なく弾きこなすし、なにより品がいい。この曲であれば、もっと野暮ったくてもそれなりに面白いが、そういうやり方を彼はしない。ふっくらとしてまろやかな音。スタイルは実にオーソドックスであり、佇まいは端正。とくに2楽章は、しみじみ美しい。

ミュンシュの指揮は迫力じゅうぶん。トランペットがまあ、よく鳴ること。そしてこの曲のオーケストラのみの場面で、これだけ臨場感のある演奏を聴かせる人は、なかなかいない。しかも、ソロにぴったり寄り添っていて隙がないところはさすが。
3楽章のラストはシェリングともども、スゴイ追い込み!









ma
 
屋根の上のパーティ。








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Comment

お早うございます… - rudolf2006

芳野さま お早うございます

本の感想も楽しみにしています
長いものを良く読まれますね… もう私はダメです、爆
根気が… 「罪と罰」は中学生か高校生の頃読んで以来読んでいません、米山訳だったと思います
久しぶりに挑戦したいですが…

シェリングのヴァイオリンは端正ですよね…
コンチェルトの録音を集めた廉価盤が出るようなので、予約しています
ミュンシュとの競演盤もあったのですね… 
息が長かったんですね…
若い頃でしょうね…

ミ(`w´彡)
2016.09.23 Fri 07:59 URL [ Edit ]

いつもありがとうございます。 - 管理人:芳野達司

rudolf2006さん、こんばんは。

ここ数カ月、「罪と罰」にかかりきりだったので、他の本をあまり読めていません。かかりきりといっても、寝る前にちょこっと読む程度なのです。読書量は落ちてきました。

シェリングのヴァイオリンは、いま聴いても古びた感じがしないです。ポルタメントを使わないのですね。使う演奏も好きですが、シェリングのようなスタイルのほうが、長続きするのかもしれません。
シェリングは録音当時、40歳前後だったかと思います。脂が乗り切っています!
2016.09.24 21:09
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