ナタリー・シュトゥッツマンのコントラルト、インゲル・セデルグレンのピアノで、シューベルトの「冬の旅」を聴く。
女声による「冬の旅」は、古くはレーマンからルートヴィヒ、ファスベンダー、白井、シェーファーなどがあり珍しくないが、ピアニストも女性なのは珍しい。女性ふたりによる「冬の旅」の、これは嚆矢ではないだろうか。
この曲は、「水車小屋の娘」において失恋して死んだ若者が、あの世に至るまでの過程を綴った音楽だと勝手に解釈している。つまり、この浮世が舞台ではない。なので、性別は関係がない。「水車小屋の娘」の女声もないわけではないが、違和感があると思う。それに比べて「冬の旅」がよく歌われることは、みんなもそう感じているからじゃないだろうか。
シュトゥッツマンの声の色調は比較的暗いので、テノールのシュライアーやプレガルディエンが歌うものよりむしろ低いように感じる。ただ、女性ならではの暖かさ優しさを全曲を通して感じないわけにいかない。聴いてとても穏やかな心もちになれる。大きな母性に包まれているよう。
実はいままで、この歌手のリートをいくつか聴いたが、陰鬱なのであまり気に入らなかった。けれどこの曲にはバッチリとはまる。呼吸が深く、濃淡をつけてしなやかに歌いあげている。この音楽の、かなり深いところまで、自然に踏み込んでいる。
セデルグレンのピアノは雄弁。歌手に寄り添いつつ、押し出すところは遠慮していない。
バリトンはもちろん、テノールも含めて、この曲のディスク史に残る演奏だと思う。
2003年、ベルリンでの録音。
カフェ。
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