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1Q84、マゼール、"英雄"

2011.12.18 - ベートーヴェン

maa

ベートーヴェン「英雄」 マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団



村上春樹の「1Q84」。
私はこの長大な小説を、ものを書くことに対する愛情の物語であると読んだ。この作品においては、小説をリライトする行為がもっとも重要なモチーフになっており、核をなしている。また、引用されたり紹介される作品も少なくない。
アリストテレスの『ニーコマコス倫理学』、『平家物語』、オーウェルの『1984年』、チェーホフの『サハリン島』、ディッケンズの『マーティン・チャズルウィット』、『猫の町』、『大菩薩峠』、プルーストの『失われた時を求めて』、ディネーセンの『アフリカの日々』、内田百閒の『東京日記』、『マクベス』等々。
示唆するところの重量感はそれぞれ違うものの、作品に対する作者のまなざしは優しく温かい。
そのいっぽうで、几帳面で用心深い性格をもつ主役のふたりの真面目さは、まるで村上の初期の頃の作品を思わせ、うまく感情移入できなかった。むしろ、「醜く」て「薄汚い魂」をもつ弁護士崩れの調査員がいい味を出している。この作品のなかでもっとも魅力的な人物だと感じた。












マゼール箱から「英雄」を聴く。彼の指揮でこの曲を聴くのは、ウイーンの音楽監督時代に来日したときにこの曲を取り上げて以来だと思う。当時ではやや贅沢品とされていたクローム・テープを無理して入手してエアチェックしたものだ。もう何年も聴いていないのでどんな演奏だったかは忘れてしまった。長いことどこかで埃をかぶっているから、まだ聴くことができるかどうか。
さてクリーヴランドとのこの演奏は、管弦楽の響きはのっけからとてもシャープ。ことに弦のキザミは力強く存在感があり、意気軒昂。少し前に録音された「アルルの女」のような過剰なポキポキ感はここでは薄く、適度な空気が混ざっているような、ふうわりとした感触がある。マゼールの芸風は70年後半のこのあたりから少しずつ変わっていったということもあるし、当然ビゼーやR・コルサコフへの接し方と、ベートーヴェンとの関わり方の違いにもよるのだろう。
いずれにせよ、全体を通して充実してイキイキとしたベートーヴェン。欽ドン賞決定!ということで、「英雄」の数多い名演奏のなかに加えたい。
1楽章のラストの高らかな主題は、両方ともトランペットあり。


1977,78年、クリーヴランドでの録音
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Comment

無題 - Yuniko

こんばんは。
マゼール&クリーヴランド管の「英雄」は、カラヤン&ベルリンpoのように威風堂々タイプではありませんが、スリムで若々しい「英雄」といったイメージがあります。
この盤は父がLPを所有していて、時々聴かせてもらっていましたが、マゼール箱で聴いてみるとアンサンブルがきっちりとそろっていて、音がきれいなのに少し驚きです。LPで聴いていた時は「何となくぼんやりした音だなあ」と感じていました。マゼール&クリーヴランド管のベートーヴェンで最初に聴いたのが「運命」→「田園」だったので、それらとはちょっと違うサウンドに聞こえたのです。
マゼール&クリーヴランド管のベートーヴェン交響曲全集は、発売開始当初はわりと注目されましたが、その後は、同時期に発売されたヨッフム&ロンドン響、さらにあとに発売されたバーンスタイン&ウィーンpoの全集の評判に押しつぶされてしまったのが残念でした。「楽聖ベートーヴェン」といったイメージとは異なりますが、全9曲いずれも、若々しく清新で溌剌としたベートーヴェン演奏が繰り広げられていると思います。録音から30年以上たった今も、そうした魅力は少しも失われていないと思うのですが・・・

先日、Amazonでマゼール&クリーヴランド管の「アルルの女」のCDを入手しました。そちらの感想は、「アルルの女」の項に寄稿します。
2011.12.21 Wed 23:48 [ Edit ]

Re:Yunikoさん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

父上様もクラシックがお好きだったんですね。それはよいですね。ワタシの家族周りはそういうヒトがまったくいないので、長年孤立しています^^
マゼールのベートーヴェンの前後に、たしかにヨッフムとバーンスタインが出ましたね。あのふたつは広告的にもインパクトがありました。カラヤンのはちょっと前でしたか。それに比べるとマゼールは地味だったかも…。
しかし今回全曲を通して聴いてみて、内容は引けをとらないことがわかりました。
つぎはチャイコフスキーを聴こうと思います。
2011.12.22 19:01
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