イタリア四重奏団鈴木修の「俺は、中小企業のおやじ」を読む。著者は自動車メーカーのスズキの会長兼社長。表紙の顔写真を見ると、たしかにそのへんの町工場にいそうだ。丸い顔に小さな目が可愛いとさえ言えるかも。でも、スズキの売上高は3兆円(2007年現在)。中小なんてとんでもない、世界的規模の会社である。大社長である。
本書は伝記ではない。若い頃の話はすっ飛ばして、スズキに入社してからの会社人生がひたすら書かれている。トヨタや日産のような車は作れないけれど、小さなクルマなら負けないという意気込みで走り抜ける人生。ナンバー・ワンになりたいから、世界の誰も見向かなかったインドやハンガリーへの進出を挑んで、1位の座を勝ち取る。さらに技術力を学びたいからGMと提携し資本参加してもらうが、後には立場が逆転してしまう。社長就任時は3000億だった売上高は、30年後に10倍になった。
絵に書いたようなサクセス・ストーリーである。もちろん、途中でいくつかの危機はあったものの、頭と気合いで乗り越えていく。なんともたくましいのだ。現代のスーパーマンとも言えるかも。
レベルが違いすぎるから、自己啓発書としては読むことはもちろんできない。でも、ひとりの実業家のパワフルな働きぶりはスゴすぎて、一気に読ませられる。ある意味、夢心地だ。
「大フーガ」はもともとは13番の四重奏曲の終楽章として作曲されたが、技術的にも聴取的にもあまりに難解だったため、初演時にはずされたという。出版者の要望でこの曲だけを独立させることにしたので、本体とは作品番号が異なっているわけだ。
ベートーヴェンの四重奏曲は、情報が肥大した現在においても難解だ。面白くなるまで、何度も何度も聴き返さないといけない。だからレコードのない初演当時は、けっこうきついものがあったのだろうことはなんとなく想像できる。それまでの楽章は、深くて滋味に溢れる曲だが、規模はそれほど大きくない。それが終楽章にきて、こんな重量級の音楽が登場するのだから、ちょっと理解に苦しむだろう。
ただ今の聴き手は、ベートーヴェンの後期は型破りでなんでもアリなところがいいのだ、なんてことをのたまう耳年増だから、案外、大フーガが終楽章に収まっていても納得がいくのじゃないだろうか。重厚長大で、いかにもベートーヴェンらしいではないか。そうなると、代替に作った終楽章の扱いが難しくなる。あれも捨てがたいからなあ。悩ましい。
イタリア四重奏団は、苦悩の音楽(というイメージ)に対しても、深刻ぶることなく、歌ごころ溢れる演奏を聴かせる。どの楽器ものびのびと躍動していて気持ちがいい。オリーブ・オイルをたっぷり纏わせたアルデンテのスパゲッティのように艶めかしい。
1969年4月、スイスでの録音
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