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フルトヴェングラーのワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(後編)

2007.12.23 - ワーグナー
wagner

フラグスタート、ズートハウス、グラインドル、F・ディースカウ、そしてフルトヴェングラーとくれば役者が揃ったようだが、一見地味なフィルハーモニア管弦楽団が実にいい味を出しているのは見逃せない。
前奏曲から明快で素直なサウンドが満開で、ことに木管と弦がいい。高音域でのキザみの輝かしい音色、中低音域のどっしりした実直な音響が心地よい。そして、この曲によく登場するクラリネットとオーボエの、細やかで芯のしっかりした美音に、これは歌の一部なのだということを思い知らされる。
歌手では、イゾルデのフラグスタートが安定している。重厚なオーケストラに負けていない。ワーグナーの管弦楽によく溶け合った声だ。声もオーケストラの一部なのか、それともオーケストラが声の一要素なのか、ともかく浮き上がったところのない互いの密接なつながりを感じる。
高い音を出しにくくなっていたフラグスタートに代わり、高い音をシュヴァルツコップが替わって歌った、という逸話があるが、聴いただけじゃわからない。「赤福」にしても「白い恋人」にしても偽装はよくないこととされているが、マスコミの報道でギャーギャー騒いでいる人に味はわからない。よって、偽装する気もわからなくはない。文句があるなら味の違いを指摘すれば良いのだ。
F・ディースカウのクルヴェナールは、立派のひとこと。役柄を完全に手中に収めているかのように思える。張りのある恰幅のよい声で、かつ全体の流れに違和感なく溶け込んでいる。
それからコヴェントガーデンの熱い合唱。登場する場面は劇的緊張感のあるシーンに限られるところで、瞬間的に沸騰するような熱狂に(特に1幕のラスト)一役買っている。
ブランゲーネのシーボムは声がいい。フラグスタートよりむしろつややかといえる。ほどよく落ち着いた保護者の率直さに安心できる。
グラインドルのマルケ王は重厚にして華麗であり、王様の貫禄充分だ。
トリスタンのズートハウスも文句のつけどころがない。声はあまり張りのあるものではないが、情熱のたっぷりはいった歌いぶりは、フラグスタートと色が似ている。あえてそうしているのか。フルトヴェングラーの指示なのか。このふたりの二重唱は、声質も歌いまわしも互いにとても馴染んでいる。
フルトヴェングラーの指揮は、ゆったりしたテンポで、流れがとても自然。違和感や滞りは、全体を通して見当たらない。
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