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F・ディースカウとムーアのシューベルト「白鳥の歌」

2010.04.11 - シューベルト
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F・ディースカウ EMI録音選集


小林秀雄と岡潔の「人間の建設」を読む。
150ページ弱の長さでありながら、内容がギッシリ詰まっている。
今日は大文字の山焼きですなあ、なんて出だしを読んで、もしかしてこれは脱力系の読み物だろうかとちょっと期待したが、違った。
岡の数学に対する情熱と小林の切れのあるレトリックとが、ぶつかりあって火花を散らせる。

岡「よい批評家であるためには、詩人でなければならないということはありますか。」
小林「そうだと思います。」
岡「本質は直感と情熱でしょう。」
小林「そうだと思いますね。」
岡「批評家というのは、詩人と関係がないように思われていますが、つきるところ作品の批評も、直感し情熱をもつということが本質になりますね。」
小林「勘が内容ですからね。」
岡「勘というからどうでもよいと思うのです。勘は知力ですからね。それが働かないと一切がはじまらぬ。」

勘は知力。文学だけでなく、普段の仕事にもあてはまる言葉だ。そういう意味ではこれも。

岡「確信しない間は複雑で書けない。」
小林「確信しないあいだは、複雑で書けない。まさにそのとおりですね。確信したことを書くくらい単純なことはない。しかし世間は、おそらくその逆を考えるのが普通なのですよ。確信したことを言うのは、なにか気負い立たなければならない。確信しない奴を説得しなければならない。まあそんなふうにいきり立つのが常態なんですよ。ばかばかしい。」

他にも、ゴッホの絵は複製のほうがいいとか、ドストエフスキーの「白痴」でムイシュキン公爵はナスターシャ殺害の共犯者であるとか、目を瞑って棒を振る指揮者なんて碌なもんじゃないとか、言いたい放題で面白い。
なんだか自分が賢くなったような勘違いをしてしまう類の読み物でもある。


F・ディースカウの歌を生で2回聴いたが、そのうちのひとつが「白鳥の歌」。そのときは、ハイネの詩によるリサイタルというテーマであったので、「詩人の恋」の全曲と、この「白鳥」の後半部分が歌われたわけ。ときにディースカウは60歳を超えていて、円熟というよりはそれを越してしまったというほうが適切といえる歌いぶりであったが、腹に響く歌唱はこれらの歌にふさわしいと思ったものだ。

「アトラス」から始まる6曲は、シューベルトの作品のなかで最晩年に書かれたものであって、重量級の重さと果てしない深みに対しては、そう簡単にはついてゆきかねるものがある。いかに天才であっても、レストランのメニューの裏にスラスラと書ける音楽ではないのではないかな。
冒頭を聴いて、「これはちょっとヤバい」と感じる音楽である。あたかも「冬の旅」のエキスをさらに圧縮したような歌が続く。
この歌曲集は「水車小屋」や「冬の旅」のように作曲者が編んだものではないが、不思議に全体の統一感がある。レルシュタープの詩によるほのぼのとした牧歌的世界に俗世を忘れて酔った後に、ハイネの陰鬱な重い歌によってわが拙いジンセイを反省させられ、最後のザイドルで許してもらうのである。
このCDにおけるディースカウは、録音当時37歳。隙のない完成された演奏。高貴な声と切れのいい技巧、文句のつけようがない。


1962年5,9月、ベルリン、ゲマインデハウスでの録音。

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