R.シュトラウス ホルン協奏曲第1番 クレヴェンジャー(Hr) バレンボイム指揮 シカゴ交響楽団伊坂幸太郎の「あるキング」を読む。
これは、ある地方球団の熱狂的なファンの夫婦が息子をプロ野球選手にするべく育てる話。
多大な犠牲を払いながら息子を擁護する夫婦がかなり猟奇的。なにかに取りつかれている。息子はいくつかの困難を経てプロ野球選手になり、数々の記録を塗り替えていくが、爽快感はない。プロ野球選手になるまでのエピソードが面白い半面、プロ野球選手になってからのストーリーはいささか退屈。
この作品には奇妙な味わいがあり、ドヨンとした後味が後を引く。
デイル・クレヴェンジャーによるR・シュトラウスのホルン協奏曲1番を聴く。
シュトラウスのホルン協奏曲は、ある奏者からインスピレーションを得て書かれたものであるらしい。ある奏者とは、父であるフランツである。彼は優れたホルン奏者であり、ミュンヘンの宮廷歌劇場が「トリスタン」や「マイスタージンガー」、「ワルキューレ」や「パルジファル」といったワーグナーのオペラを初演した際の主席ホルン奏者であったとのこと。ワーグナーは彼と意見が合わないため嫌っていたが、ホルン奏者としての腕前は買っていた。
この曲は「イタリアより」の初演の2年前に書かれ、この作曲家の名を一躍知らしめた。
クレヴェンジャーは1966年にシカゴ交響楽団に入団している。ハーセスと共に、ショルティ時代のシカゴ響を象徴する存在だと言えるだろう。テクニックの高さは言うまでもなく、音色は輝かしい。
それはこの協奏曲にも顕著に現れている。その音色は真夏の太陽のように明るくすみずみにまで響き渡る。まったく屈託のないホルンである。じつに爽快。
よって、この演奏に陰影を求めることはできない。若きシュトラウスの、あり余る才能を、ひたすら前向きに享受するには恰好の演奏だと思う。
1998年10月、シカゴ、オーケストラ・ホールでの録音。
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