R・シュトラウス「アルプス交響曲」 マゼール指揮 バイエルン放送交響楽団
カントは、街の人々が彼の散歩をする姿をみて時刻がわかったという逸話のある人物であり、日常生活はとても厳格に守られていた。
木原武一の「哲学からのメッセージ」によれば、こうである。
「夜は十時に就寝、朝は五時に起床というのが一定不変のカントの習慣であった。朝はおきるとすぐに朝食をとった。朝食といっても、二杯の茶と一服のタバコだけで、正式の食事は朝食一回のみである。規則的生活と小食が八十歳まで生きた長寿の秘訣かもしれない。カントはこの朝の一服のタバコをたいへん楽しみにしていたが、これについても『タバコは一日にパイプ一服のみ』という格律をきめていた。理由は、便秘薬のばあいと同じである」。
なんだか微笑ましい。カントが禁煙ファシズムがはびこる現在に生きていたら、どんな行動をするのか。きっと、なにがあろうと毎日1本づつ吸い続けるような気がするのだ。
マゼールの指揮で「アルプス交響曲」を聴く。
全体的にじっくりと練り上げられた演奏。冒頭から音の密度が濃く、R・シュトラウスの音響世界に引き込まれる。
マゼールが曲になじんでいるし、なによりオーケストラが自身の手の内にはいっている感じ。ショルティがわざわざこのオケで録音した理由がわかるような気がする。
個人技がたくさんあるので、素人目にも技術的には難しいと思われるが、例のトランペットの危険な個所であるところの「頂上にて」においてもまったく危なげがない(ここはプレヴィン/フィラデルフィアがド派手にやらかしている)。
「雷雨と嵐」のシーンでは、ここぞとばかりにいろんな打楽器やら、ウィンド・マシーンやら、どこから入手したのかわからない怪しい音響をぶちかましていてステキである。
「終結」でオルガンが奏されたあとのホルンはしみじみ美しい。滋味がある。
全体的に聴かせどころをマゼールらしく押さえた演奏であるように感じた。
マゼールとバイエルンのコンビでのR・シュトラウスでは、「ティル」と並んで、この「アルプス」を気に入ったナ。
1998年3月、ミュンヘン、ヘラクレス・ザールでの録音