河野真有美さんのピアノで、スクリャービンのピアノ・ソナタ3番を聴きました(2018年6月10日、汐留、ベヒシュタイン・サロンにて -井出よし江さんの門下生発表会-)。
スクリャービンはこの曲に「精神の状態」という意の副題を後につけています。いっぽう、マリア・ユーディナはこの曲を「自然への賛歌」と評したそうです。自然に対する受け取り方が心模様を変遷させるという点において、どちらとも取れるようです。
音楽は凪というよりは時化の海。深く沈静するところより、激情に駆られたような場面が多くあるように感じます。
さて、河野さんによるスクリャービンの3番を聴くのは春に続いて2回目。ピアノとホールが異なるせいもあり、前回とは違う印象を受けました。
まず、抑揚のつけかたがとても自然でスムーズ。そして、紫煙のように鬱蒼とした左手と、羽毛のようにしなやかな右手とのコンビネーションが、音楽に濃い彩りを施していました。テクニックは万全であり、どこを叩いても揺るがない安定感があった。
その結果、ロマンティックであり、かつ明晰なスクリャービンの世界が構築されたという手ごたえを感じました。隙がなかった。
彼女は主にコレペティが本業であるがゆえにソロはなかなか弾きませんが、このスクリャービンを聴いて、もっとソロを聴きたいと実感しました。
いま注目のピアニストです。
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