新宿区民オペラのチャイコフスキー「エフゲニー・オネーギン」を観ました(2017年9月10日、東京、新宿文化センター大ホールにて)。
ロシア語による上演です。このオペラ、まず歌詞が素晴らしい。もちろん、日本語訳で知りました。近代ロシア文学の嚆矢であったところのプーシキンが紡ぎあげた美しい言葉に、深い感銘を受けないではいられません。それが、このオペラを観ることの楽しみのひとつ。
そして音楽。チャイコフスキーが30歳後半のときに書きあげられました。一言でいえば、バレエの「動」に対し、こちらは「静」。ポロネーズとわずかのシーンを除き、それは一貫しています。全体を通して、叙情的な味わいが濃い。いくつかのアリアは夢見るように美しいものです。
そのひとつが、タチアナの「手紙の歌」。弦の波に乗って、フルート、オーボエ、ホルンの音色が煌めきます。そして、タチアナの歌は、愛のせつなさと憧れに満ち満ちていて、胸を強く打たないわけにはいきません。
決闘前のレンスキーのアリアは、この日最大の聴きものだったと思います。誠実にしてまっすぐな若者の、苦悩と無念を、澄み切ったテノールで歌いきり、見事でした。
タチアナは、硬めで怜悧な声質。風貌といい、佇まいといい、基本的には冷静沈着な役づくりなのですが、ここぞというところ(「手紙の歌」)では青い炎のような歌いまわしを披露し、聴きごたえがありました。
対してオルガは、カドの取れた、柔らかでふくよかな声。性格の優しさをあらわしているかのようでした。演技がとても雄弁なところも特筆したいです。
オネーギンの声はまっすぐで艶があり、なかなかの貫禄がありました。神経質な雰囲気も、化粧と衣装から感じとることができました。ヴィブラートは少し多め。
グレーミン公爵のアリアもなかなかでした。バリトンよりバスのほうが近いだろうか、よく響き渡る声は、注意深くコントロールされていました。欲を言えば、もう少し柔らかなほうが好みだったかな。
オーケストラはまずまず。弦楽器群がやや弱かった反面、木管楽器は終始滑らかに奏でていて安心感を持ちました。
演出は、簡素にして端的なもの。登場人物の立ち居ぶるまいと音楽をうまく引き立てていました。
指揮:米津俊広
管弦楽:新宿オペラ管弦楽団
合唱:新宿オペラ合唱団
オネーギン:相沢創
タチアナ:福田祥子
レンスキー:松岡幸太
オルガ:栗田真帆
ラリーナ夫人:飯島由利江
フィリブエナ:山口和香
グレーミン公爵:ジュリアン・ロウ
中隊長:五島泰次郎
ナレーション:三角ゆい
ピアニスト:河野真有美、岩崎能子、竹之内純子、松井理恵
演出:園江治
パースのビッグムーン。
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