ラザール・ベルマンのピアノで、リストの「巡礼の年、第1年『スイス』」を聴きました(1977年5月、ミュンヘン、ヘラクレス・ザールでの録音)。
「巡礼の年」はリストが20歳代から60歳代にかけて断続的に書かれた作品です。よって、彼の創作人生の大半をここに垣間見ることができるといってもいいかもしれません。
そのうちの「第1年、スイス」は若いころに作曲されており、それぞれの曲には、いくつかの詩から引用した標題がつけられています。
比較的若書きとはいえ、しなやかさに加えて深みもある曲集です。
1.ウィリアム・テルの聖堂
2.ワレンシュタットの湖で
3.田園曲
4.泉のほとりで
5.夕立
6.オーベルマンの谷
7.牧歌
8.ノスタルジア
9.ジュネーヴの鐘
ベルマンが西側へ進出したときは、テクニックの秀逸さばかりが宣伝され、実際にカラヤンとのチャイコフスキーを始め、ヴィルトゥオーソを強調するような演目を多く取り上げていました。
でも、このリストを聴くと、ただ単に技巧の高さだけ(それでもじゅうぶんにすごいわけですが)のピアニストではないことがわかります。
音色は柔らかく、奥行きがあります。ピアノ・ピアニシモは真珠のように繊細でまろやかな艶があり(「ワレンシュタットの湖で」、「オーベルマンの谷」、「ジュネーヴの鐘」)、フォルテ・フォルテッシモにおいては、秋の空のように曲線的に音が広がります(「夕立」)。
音楽の流れは、自然な抑揚があり、滞るところは皆無です。いい意味で眠りを誘います。
ロマンティックな曲であり、演奏。とても優れたピアノだと思います。
パースのビッグムーン。
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