新国立劇場でチャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」を観る。
「チャイコフスキーが音楽を付けたバレエ。世の中にこんなにいいものがあるとは。ならば、人生は生き抜く価値がある。」
序曲は弦楽器がカサついていてアンサンブルも頼りなかったため不安になったが、行進曲あたりから持ち直した。東京フィルの、コクのある音色を随所に楽しめた。
この指揮者を初めて聴いたが、おそらくバレエ音楽を得意にしていると思われ、ゆっくり目のテンポを基調として、踊り手にピタリと狂いなくリズムを合わせることに成功していたように感じられた。
テンポに関しては、普段聴いているドラティ盤(コンセルトヘボウ、ロンドン)はもちろん、ボニングのテンポよりもはっきりと遅い。コンサートではなく、踊り手のいる状況でのテンポということを加味しても、さらに遅い。1幕の情景において、それは顕著だった。でもその遅いテンポは、踊り手にとって踊りやすそうであったし、すみずみまで明瞭に、そして大きな動きをするために必要だったのだろう。振付のことをよくわかっていないが、そんな感じがした。
出だしは現代風の演出。高層ビルを背景に、さまざまな人たちが舞台を横切る。だから夢が始まったときの幻想味は、際立っていた。
ネズミの大将は大柄で凶悪な顔をしているが憎めず、いいキャラを演じていた。12時を指す時計は、鐘というよりもおじいさんの古時計みたいな懐かしの音。くるみ割り人形の鉄砲は、なんと大砲!
バレリーナについてはみんなよかったとしか言いようがない。なんといっても最大の見せ場は2幕の「ディヴェルティスマン」だが、みんながかわるがわる自慢の技を見せつけるあたりは、体操競技の種目別を思わせた。盛り上がらないわけがない。
あと音楽で面白かったのは、「花のワルツ」でのコントラバス。CD、実演を通してあんなにゴリゴリと聴こえる演奏を他に知らない。コントラバスは、ピットの真ん中の一番奥に陣取っていたが、じつに明快に聴こえた。隣にいたハープも。
「雪のワルツ」の少年合唱はもしかしたら舞台に上がって歌うのか知ら、と思ったら、ピットの左手奥におもむろにあらわれた。子供たちの頭だけが見えて、可愛かった。
アレクセイ・バクラン指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
東京少年少女合唱隊
振付:レフ・イワーノフ
演出・改訂振付:牧 阿佐美
装置・衣裳:オラフ・ツォンベック
金平糖の精:米沢結
王子:ワディム・ムンタギロフ
クララ:奥田花純
ドロッセルマイヤー:マイレン・トレウバコフ
雪の女王:小野絢子
他
2015年12月22日、初台、新国立劇場にて。
海へ。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR