新国立劇場の制作による、チャイコフスキー「エウゲニ・オネーギン」に足を運びました(2019年10月6日、新国立劇場にて)。
チャイコフスキーは一般的に、いわゆる「オペラ作家」と云われることは少ないでしょう。でもこの曲や「スペードの女王」あるいは「イオランタ」を聴くと、メロディーの美しさ、歌のニュアンスの細やかさ、オーケストレーションの妙味がふんだんに盛り込まれていて、その魅力には抗しがたいものがあります。ワーグナー、ヴェルディやプッチーニ、あるいはマスネとも違った味わいがある。そうしたことを、過去の区民オペラの公演で知った次第。
さて、この日の公演、満足のいくものでした。
先立って、「レンスキーがいささか弱い」との評をいくつか拝読。でも、テノールといえばドミンゴのような直線的な歌唱が多いなか、コルガーティンはゆるやかに抑揚のついた曲線的な歌いまわしで、ウェルテル的とも言いたい脆弱キャラを作っていたと思います。決闘の際に彼が拳銃を発砲しなかったのは自殺だからという解釈もでき、そうすると声のか弱さは腑に落ちる。決闘前に歌われた「わが青春の輝ける日々よ」は心に沁みました。
主役のタチヤーナ、オネーギンは言うことなし。歌も演技も高いレベルで安定していて、隙がない。「手紙の歌」はいままで何度も触れたアリアだけれど、こんなに心に染み入ったことはないかも。
グレーミンは鉄板。ここは距離走だから全力疾走できる、おいしい役どころ。
オリガも歌唱はGOOD。でも、みょうちきりんな衣装が気になった。深い意味があるのかな?
それを含め、演出はところどころ意図がわからないところがありましたが、そこは枝葉と捉えてスルー。
舞台装置はシンプルだけど見栄えがする作り。音楽に没入できました。
管弦楽は上手かったけれど、ときに平板に聴こえることがあった。指揮者のリードの塩梅だったのかもしれません。
全体を通して、歌手と合唱がよかったため、とても聴きごたえのある公演でした。
タチヤーナ:エフゲニア・ムラーヴェワ
オネーギン:ワシリー・ラデューク
レンスキー:パーヴェル・コルガーティン
オリガ:鳥木弥生
グレーミン公爵:アレクセイ・ティホミーロフ
ラーリナ:森山京子
フィリッピエヴナ:竹本節子
ザレツキー:成田博之
トリケ:升島唯博
隊長:細岡雅哉
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:アンドリー・ユルケヴィチ
演出:ドミトリー・ベルトマン
美術:イゴール・ネジニー
衣裳:タチアーナ・トゥルビエワ
PR