尾高のマーラーを聴くのは、大学4年のとき以来。30年近くぶり。あのときは交響曲5番だった。当時、そして今でも同人誌仲間である高城くんを誘っていったのだった。
ややゆっくり目のテンポでもって、しっとりとした弦楽器が美しい、そして当時の日本のオケとしては珍しくほとんど瑕疵のない演奏だった。少し前にメータの指揮イスラエル・フィルの演奏で同じ曲を聴いたのだが、それよりもいい演奏だったと記憶する。
昨夜の演奏も、それを彷彿とさせるものだった。
尾高の演奏は基本的に健康。それはこのマーラーもそうであり、むやみと悲壮感を漂わせない。東京フィルの音色は落ち着いた色調であるが、曲の解釈そのものは明るい希望が漂う、そんな感じを受けた。
東京フィルは、今までもっとも聴いたオーケストラ。というのは、むかし近所に事務局の方が住んでおり、毎月の定期演奏会のチケットをもらっていたから。中学から大学までそれは続いた。ありがたいことである。
そのときからこのオーケストラは、弦楽器が優れていた。いささか乱暴に例えるならば、ロンドンのフィルハーモニーと音色が似ている。ややくぐもっていてコクがある、しっとりとした腰の低い響き。
それは、この日の演奏でもじゅうぶんに発揮された。
また、クラリネットとファゴットも見事だった。終楽章の件の「2度目のファゴット」は、あたかもカラヤン指揮ベルリン・フィルのライヴを彷彿とさせるような音色を醸し出した。チェロがじんわりと効いていた。
ホルンは目立つところで瑕疵があったものの、全体的には輝かしい音を放っており、聴きごたえがあった。女性が叩く大太鼓は存在感たっぷり。
終楽章がとくに優れていたように思う。編成はヴァイオリンが6プルト、ヴィオラが5プルト、コントラバスは8台。厚みのある弦のうねりに身をゆだねた。心地よかった。
2015年7月17日、東京、サントリー・ホールにて。
休憩。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR