マルクス・アウレーリウスの言葉は正論だ。それだけに厳しい。
日曜日の夜にひもといたならば、自分の心がたよりなくなる。
ある種、毒である。
「あたかも一万年も生きるかのように行動するな。不可避のものが君の上にかかっている。生きているうちに、許されている間に、善き人たれ」(第4巻17)。
アラウのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ23番を聴く。
これはザルツブルク音楽祭でアラウが生涯の最後に行った演奏の模様。
アラウは日本に最後に来た時も、この曲を弾いた。残念ながら実演ではなくFMで聴いた。大学生のときだったと思う。30年以上前のことだが、あまりのスゴさに腰が抜けそうになったことを今でも鮮明に覚えている。そのエアチェックはいまでも大切に保管している。カセット・テープなど、もう聴くかどうかわからないが、なんだか捨てられない。
このライヴは、それに比肩する。東京公演の模様は、なにしろ自分が学生のときに聴いたものだから、いっそう感慨深い。だが、いまこのザルツブルクを聴くと、やはり感銘を受けないわけにいかない。
テクニックは完璧とは言えない。なんたって79歳だから。同じ時期のポリーニなんかと比べたら気の毒なほどである。
ただ、それを補って余りあるなにかが、この演奏には厳然と屹立している。手ごたえ確かに。
ことに、3楽章の終結部の緊張感はただごとではない。ピアノという楽器は、こんなに深くて広がりのある音を出す楽器だったのか。音量そのものは最大とはいえないのに、この威圧感はなんなのだ。
ド迫力である。
アラウの70年以上に渡るピアノ人生は、伊達や酔狂ではない。
カップリングのリスト、とくに「ダンテを読んで」も名演である。が、なにしろベートーヴェンが凄すぎるので、このディスクとしては霞んでしまう。
1982年8月15日、ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ録音。
休憩。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR