東京二期会・他の制作、グラインドボーン音楽祭提携のR・シュトラウス「ばらの騎士」を観ました(2017年7月29日、上野、東京文化会館にて)。
この公演を観るにあたって、C・クライバー/ウイーン国立歌劇場のDVDと、カラヤン/ウイーン・フィル他によるCDを聴いて予習しました。
このふたつがあまりにも素晴らしいため、いくら生の舞台とはいえ、分が悪いのではないかと少しだけ懸念しました。
果たして、それは杞憂でした。歌も演出も、そしてオーケストラもとてもよかった。
演出は、ロココ調と現代風との折衷的なものと感じました。カツラはしているが黒髪。いっぽうで電話が出てきたり。
黄色や水色を背景に使った明るい色調の舞台。3幕で、オックスがオクタヴィアンを招く部屋に可動式の大型ベッドが出現し、それが笑いを誘いました。
2幕の最後では、オックスの女性遍歴をあらわしたスライドが開陳。これはおそらく「ドン・ジョヴァンニ」の「カタログの歌」のパロディ。
全体を通して、喜劇的な側面を強調したものでありつつ、ラストの3重唱ではやはりホロリとさせられました。
元帥夫人は、声が安定しており、風格を感じさせました。3幕で登場するところは、感動。ただこの幕での衣装は、マリリン・モンローを想起させるもので、可愛らしくていいものの、元帥夫人のイメージとはちょっと違う感じもしました。
オクタヴィアンは、このオペラでもっとも出番が多いわけで、彼女のでき具合で善し悪しが決まると言っても過言ではない。小林さんは、この役柄の中性的な部分を把握し、力強い歌唱を万全のスタミナでもって、全曲をまとめていました。
オックスは、1幕はちょっとイメージと違う感じがしました(クルト・モルに比べて、声が軽いから)が、2幕以降は安定した歌いぶりに加えて、コミカルな演技の達者さに唸りました。
ゾフィーは、この日の大きな聴きもののひとつ。声を高い音にずり上げるところは、ルチア・ポップやバーバラ・ボニーを彷彿させるもの。清らかで透明感のある声そのものがよかったし、歌い回しも軽快。聴いていて愉快な気持ちになりました。
ヴァイグレが指揮する読売日響は、素晴らしいの一言。日本のオーケストラが、3時間超にわたる楽曲において、ほぼノーミスなのを聴いたのは初めて。ホルンがよかったし、チューバ、ファゴット、フルート、オーボエ、ヴィオラ。すべてのパートにおいて、非の打ちどころがなかった。なかでもヴァイオリンの合奏は、蕩けるよう。おそらく、ヨーロッパのオペラ・ハウスに引けを取らない。
また、歌手の声をかき消さないよう、絶妙な加減で音量のバランスをとっていたことは、ヴァングレのセンスなのでしょう。光っていました。
件の、オックス男爵のワルツは、じっくりとテンポを落として濃厚に仕上げていました。これはまさしく、ヨーロッパ貴族社会の没落の悲哀。
いま思い出しても泣けます。
林正子(ソプラノ:元帥夫人)
妻谷秀和(バス:オックス男爵)
小林由佳(メゾ・ソプラノ:オクタヴィアン)
加賀清孝(バリトン:ファーニナル)
幸田浩子(ソプラノ:ゾフィー)
大野光彦(テノール:ヴァルツァッキ)
石井 藍(アルト:アンニーナ)
栄千賀(ソプラノ:マリアンネ)
菅野 敦(テノール:歌手)、ほか
二期会合唱団
NHK東京児童合唱団
セバスティアン・ヴァイグレ指揮
読売日本交響楽団
演出:リチャード・ジョーンズ
装置:ポール・スタインバーグ
衣装:ニッキー・ギリブランド
照明:ミミ・ジョーダン・シェリン
公演監督:多田羅迪夫
PR