今年のテーマは「PASSIONS 恋と祈りといのちの音楽」とのこと。
演目は、バッハ、ハイドン、ベートーヴェン、ワーグナー、メシアン、ラフマニノフ、ヒンデミット、モンテヴェルディ・・・・・・と、なんでもアリ感が強い。たまにはそういうテーマであっても、もちろん悪くはない。
そのうちの、シューベルトの演奏会に行った。弦楽五重奏曲。言うまでもなく、彼の最強の作品のひとつだ。
演奏は、アルデオ弦楽四重奏団とオーレアン・パスカル(Vc)。どちらも、初めて聞く名であり、音楽も初めて聴いた。
弦楽四重奏は全員女性、ゲストのチェロのみ男性といった布陣。ヴァイオリンは細くてきれい、チェロはキッチリとした輪郭がある。ただ、ヴァイオリンは激しいところでときおり音程を外していたので、聴きどころはテンポのゆっくりした1楽章、2楽章、3楽章のトリオ、4楽章の経過句あたり。つまり、全体を通して聴きどころだった。
この音楽は、シューベルトの白鳥の歌のひとつ。いわゆる遺作である。浮世離れした幽玄な雰囲気が濃厚に漂う。その濃さは、後期のピアノ・ソナタに優るとも劣らない。
シューベルトは梅毒で死んだ。間抜けと言えばそれまでだが、そのエピソードは彼がバッハやベートーヴェンと比肩するくらいに男性的な音楽家だったことを物語るような気がする。女はおうおうにして実利をとるが、男は憧れを求める。シューベルトが何に憧れていたのかは定かではない。でも、わけのわからぬ何かを求めて音を紡いでいったことは信じられる。
そういう音楽を、女性たちは堂々と弾いてのけた。
とくによかったのは、チェロのふたり。この曲がチェロの2丁編成であることの意味を、理解させてくれた。全曲を通してヴァイオリンは高めの音を鳴らすのに対抗して、チェロはあたかも通奏低音のように土台をしっかりと支えているのだ。
ヴァイオリンとヴィオラもいい。音が細いのは短所であると同時に長所でもあるから。
彼女たちのベートーヴェンを聴いてみたくなった。
2015年5月3日、東京国際フォーラム、ホールB7にて。
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5月下旬に重版できる予定です。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR