ダニエル・ハーディング指揮 新日本フィル他の演奏で、マーラー交響曲8番「千人の交響曲」を聴く。
(2016年7月2日、東京、すみだトリフォニー・ホール)。
ハーディングの指揮で新日本フィルが演奏するマーラー、そしてすみだトリフォニー・ホールというキーワードから、3.11を思い出さずにはいられない。
あの日の演目は、交響曲5番。1900を超える座席は完売していたが、実際に来ることができた人は105人。東北で被災した方には申し訳ないくらいに小さいことだが、あの日は首都圏もじゅうぶん怖かった。その状況でコンサートを決行した根性には、恐れ入る。
それはさておき、ハーディングの8番である。
杭を打ちこむようなパイプオルガンに続いてなだれこまれる、合唱の硬質で力強い響きで勝負あったという感じ。
編成はヴァイオリンの対抗配置。コントラバスは8台ながら、ヴァイオリンは各7プルト。
マッシヴな迫力もさることながら、弱音の精緻さも特筆したい。ホルン、ヴァイオリン、ヴィオラ、ハープ、チェロのソロはこの大編成のなかにおいてもリリカルな味わいをしっかりと醸し出しており、存在感があった。
吉田秀和は、7番交響曲のオーケストレーションを「室内楽的」と評したが、それはこの8番にもあてはまることを改めて感じた。
ナジによる法悦の教父は貫禄たっぷり、そのなかに淡い抒情味が立ちのぼっていた。オニールのマリア崇敬の博士は、オーケストラの音量に負けないまっすぐな声が出色。中島郁子は急な代役であるにも関わらず、色香のあるグラマラスな声を聴かせてくれた。マギーとバンゼはまっすぐで透明感のある声を披露した。
それ以降の音楽は、寄せては返す大波小波。息の長いフィナーレが何度も続くかのようであり、緊張感が途切れなかった。
ラストは第1部同様、パイプオルガンの左手に登場したバンダが、音量に加えて視覚的にも効果満点で、興奮を抑えることが難しかった。
全体を通して、各パートのバランスといい、抑揚のついた表情の豊かさといい、奏者の技量の高さといい、申し分のない出来。長大な2部はさらに、もっともっと続いて欲しいと思うくらいだった。
罪深き女 エミリー・マギー
懺悔する女 ユリアーネ・バンゼ
栄光の聖母 市原 愛
サマリアの女 加納 悦子
エジプトのマリア 中島 郁子
マリア崇敬の博士 サイモン・オニール
法悦の教父 ミヒャエル・ナジ
瞑想する教父 シェンヤン
合唱 栗友会合唱団
合唱指揮 栗山 文昭
児童合唱 東京少年少女合唱隊
児童合唱指揮 長谷川 久恵
春。
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