ユージン・イストミンのピアノで、シューベルトのピアノ・ソナタ17番を聴く
(1969年6,9月、ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオでの録音)。
イストミンのシューベルト17番は、村上春樹の「意味がなければスイングはない」でカーゾン盤、アンスネス盤などと共に大きく取り上げられたもの。クラシック音楽ファンではない、いわゆる「ハルキスト」たちに多く聴かれた曲。というのは、この本が出版された直後に、このディスクはソニーから緊急再発売された、ということがあるから。
それを知りつつ、レギュラー価格だったので、それには手を出さなかった。そのときから10年とちょっと、ようやくこのイストミン集が出たので、購入した。
村上のこの曲に対する考察は、細部では異論がある(ギレリスに対する考察など)ものの、カーゾンとアンスネス、クリーンはよかったので、信頼している。
イストミン12枚組は、どれも素晴らしい演奏のオンパレードであるが、そのなかでもこのシューベルトは白眉。待った甲斐があった。これは、「ハルキスト」ではなく、クラシック音楽ファンが聴くべきものだ。
全体的にテンポはやや速め、端正な佇まい、ひとつひとつの音が真珠のように粒だっており、生き生きとしているところは、いかにもイストミンらしい。そしてここでは、細かなテンポの揺れや間の取り方が面白い。
うららかな空気は春の芳香を満たしつつ、この部屋に立ち昇る。むせ返るようなロマンの匂いに、眼が眩みそう。作曲当時、シューベルトはまだ20歳代だった。
ああ、ピアノはやっぱりいいものだな。改めてそう思わずにはいられない、曲と演奏。
春。
PR