マティアス・ゲルネのバリトン、マルクス・ヒンターホイザーのピアノによる「冬の旅」公演に行きました(2017年10月22日、六本木、サントリーホールにて)。
ピアノは当初エッシェンバッハでしたが、左手指の不調とのことでヒンターホイザーが代役。少し残念でしたが、彼もゲルネとの共演は多いとのことで、大いに期待しました。
私はこの音楽を、「美しき水車小屋の娘」で死んだ青年が、黄泉の国をさまよい歩いて救いを求める物語である、と勝手に解釈しています。この歌曲集の大半が短調であることからも、です。
だからゲルネが、「救い」をどう歌いあげるのかを注目していました。
ゲルネの声は豊満。呼吸が恐ろしくたっぷりとしていて、抑揚が大きい。サントリー・ホールのすみずみまでを、豊潤な黄金に彩りました。
前半は中くらいのテンポ、後半はゆっくり目。速度を大胆に変化させながら、色濃い表情を紡ぎあげていました。
ヒンターホイザーはやけに猫背であり、かつ椅子が低いため顔と鍵盤が近いところが、まるでグールドを思わせました。テクニックは極めて精確であり、音色は透明感があり、ゲルネとの息もぴったり。正直言って、エッシェンバッハよりも、彼がよかったとしみじみ感じました。
曲の繋ぎを、すべてアタッカで押し通したところは、もの凄い迫力でした。
さて「救い」ですが、自分のためだけに楽器を操るライアーまわしの孤独を、ゲルネはおおらかな心で包み込んでいました。そこには、仄かな光が差し込みました。
孤独は、寛容で救われたと感じました。
素晴らしい演奏会でした。
パースのビッグムーン。
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