F=ディースカウのバリトン、ムーアのピアノで、シューベルトの「冬の旅」を聴きました(1962年11月、ベルリン、ゲマインデハウスでの録音)。
映画評論家の淀川長治は、映画を一度目に観るときは演出に、二度目は役者に着目して観ると語っていました。
ならばということで、「冬の旅」をそのように、つまり最初に歌を聴いて、二度目はピアノに注意して聴こうとしました。けれど、うまくいかなかった。歌のみを、うまく取り出すことができないのです。歌とピアノとがあまりにも緊密に連関しているためでしょう。逆も、しかり。両者を別々に聴けたならば、また違う感興があるかもしれません。
さて、ディースカウの歌は、「菩提樹」あたりまでは独特のクセを感じますが、以降はディースカウという固有名詞が抜けたような、ただただバリトンといった歌を聴かせます。もちろんうまいのですが、声質そのものが純粋と言っていいほど、バリトンそのもののようです。声が、曲に溶け込んでいます。
彼の「冬の旅」は1970~80年代のディスクも素晴らしいですが、録音当時30歳半ばだったこのディスク、やはり捨てがたい魅力があります。
パースのビッグムーン。
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