ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場・他の演奏で、チャイコフスキー「スペードの女王」公演に足を運びました(2019年12月1日、東京文化会館大ホールにて)。
大雑把に説明しますと、これは愛欲が蠢くストーリーに3枚のカードの秘密というスパイスが絡む悲劇であり、それをチャイコフスキーの音楽が甘美に蕩々と彩る、という歌劇。
スペードの女王を初めて聴いたのは、1992年のウイーン国立歌劇場の映像。NHK教育テレビで放送されていたものをビデオに録画して何回か観たのだけど、後にビデオを処分。なので今回は同じ公演をyoutubeで予習した次第。ここでは往年の名歌手マルタ・メードルが伯爵夫人を演じていて、大きな存在感を示していたし、リーザ役のフレーニが素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。
さて、本公演はどうか。
歌手は、ここでもリーザの存在感が大きい。張りがある声は力強いし、美しい女のささやきを思わせるニュアンスに富んでもいて、実に素敵な歌唱と演技。
ゲルマンはヴィブラートを多用しているところが気になったけど、一貫して力強かった。
ポリーナ、出番はほぼ前半のみだったにも関わらず、グラマラスで色香濃い歌は存在感がひときわ高く、この日の白眉のひとつとの印象を持ちました。
伯爵夫人は何はともあれ、見た目の威圧感で勝負といった感じ。
コーラスは毅然としていて透明感があって、気持ちがよかった!
ゲルギエフのオケは好調。このオペラはクラリネットが広く活躍するのだけど、太くて柔らかい音色は世界を見渡しても第一級。また、コントラバスは少なくとも7,8名いたから、ピットの人数としては最大級。ここぞという場面でゴリゴリした重低音を炸裂していました。
全体を通して、こなれた演奏と舞台。
フォルテッシモにおいても、歌を掻き消さないバランス感は指揮者の采配によるもの。これが音楽に彩りと広がりをもたらしていたと感じました。
ゲルギエフは爆裂指揮者ではない。陽だまりのような優しさに溢れた、知性派なのでした。
それにしても、主役ふたりのぶっ飛びかたはスゴい。プーシキン、ドストエフスキーの先駆をいくだけのことはあるようです。
ゲルマン (テノール):ウラディーミル・ガルージン
トムスキー伯爵 (バリトン):ウラディスラフ・スリムスキー
エレツキー公爵 (バリトン):ロマン・ブルデンコ
伯爵夫人 (メゾソプラノ):アンナ・キクナーゼ
リーザ (ソプラノ):イリーナ・チュリロワ
ポリーナ (メゾソプラノ):ユリア・マトーチュキナ、他
マリインスキー歌劇場管弦楽団・合唱団
演出:アレクセイ・ステパニュク
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