バーンスタイン指揮ウイーン・フィル他の演奏で、ヴェルディの「ファルスタッフ」を再び聴きました(1966年3月、4月、ウィーン、ゾフィエンザールでの録音)。
小林秀雄は、アインシュタインが論じたヴェルディについて、こう書いている。
「ヴェルディのメロディというものは、おまえたちがメロディだなんて思っている裏の方で鳴っているもので、おまえたちのメロディとは全然ちがうもんだ」。
『トラヴィアータ』や『アイーダ』を聴いて耳に快いメロディだというが、「そんなことをいったらきみたちはヴェルディという人を間違える。ヴェルディがどうしてワーグナーと拮抗するくらい偉い音楽家であるかということは、わからないだろう。そういうことを言ってるんです」。
アインシュタインのどんな本なのか興味深い。機会があったら読んでみたいものだ。
それにしても彼が何を言わんとしているのかは、よくわかりかねる。メロディの裏とは何ぞや? 禅問答のようである。
ただ、ヴェルディがワーグナーに拮抗しているという説は理解できる。「ファルスタッフ」を聴けばいい。
これはヴェルディが生涯で最後に書いたオペラ。この作曲家について詳しくはないが、それまでの「トラヴィアータ」や「アイーダ」、「オテロ」といったところとは一線を画する違いを感じる。
それは、全編が一気呵成に進んでいくところ。ひとつの声楽曲の大きな楽章のようにも思える。幕ごとに切れ目はあるものの、シーンごとはほぼ繋がっているため、緊張感を強いられる。それはあたかも、嵐のあとの大河を思わせる。あらがいようのない大きな力が非常な推進力をもってとうとうと流れる。
管弦楽法の緻密さや、めくるめくフーガの展開など、技術的にも卓越しているだろうことは手に取るようにわかる。
バーンスタインのリードは、なにしろ勢いがいい。冒頭からエンジン全開という感じ。ウイーン・フィルが、こんなにはちきれんばかりに演奏しているのは、最近ではあまり聴かれないかも。
ディースカウの歌唱は、想像以上。声質はコクがあり、歌いまわしもうまい。それでいて嫌味は薄い。
ヴァルデンゴ、タディ、ブルゾンもいい味を出していて気に入っているけど、ディースカウのうまさは一段抜けていると思いました。
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン:ファルスタッフ)
ローランド・パネライ(バリトン:フォード)
グラツィエッラ・シュッティ(ソプラノ:ナンネッタ)
イルヴァ・リガブーエ(ソプラノ:フォード夫人)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト:メグ)
レジーナ・レズニック(メゾ・ソプラノ:クイックリー夫人)
フアン・オンシーナ(テノール:フェントン)
マレイ・ディッキー(テノール:バルドルフォ)
ゲルハルト・シュトルツェ(テノール:カイウス医師)
エーリッヒ・クンツ(バリトン:ピストーラ)、他
ウィーン国立歌劇場合唱団
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