ドミンゴの題名役、ジュリーニ指揮ロイヤル・オペラハウス、他の演奏で、ヴェルディ「ドン・カルロ」(5幕版)を聴きました(1970年8月、ロンドン、ウォルサムストウ・タウン・ホールでの録音)。
なにはともあれ、ドミンゴがいい歌を聴かせます。
彼の80年代以降の演奏に触れると、声は輝かしいものの、ときに一本調子になるところが感じられ、それが気に入らないこともあるけれど、ここでの歌唱には問答無用に魅せられます。若々しく艶があり、適度な抑揚は淡い抒情味と慎ましさを醸し出し、そしてじゅうぶんにヒロイックでもある。
エリザベッタも妖艶かつ細やかでいいけれど、カバリエならばもっとできる気も。これは贅沢な注文。
ロドリーゴはコクのある美声。役どころ通り、信義に厚い人物を律儀に歌いきっていて潔い。太い芯はまっすぐ。
フィリッポ役もビックネームだし、ふくよかな声は大いに魅力。でもこの役はクリストフとレイミーのイメージが強くて、それをなかなか払拭できない。
可愛いエボリは出番以上に存在感があると感じていて、それは「ヴェールの歌」が素敵だから。ヴァーレットはこれを、セクシーに野性味たっぷりに、ちょっぴり暴力的に奏でていて引き込まれます。
大審問官もいい。中世のスペインの肖像画のような威厳があり、低音はすきっ腹に直撃する。フィリッポとの掛け合いは、当演奏の大きな聴かせどころのひとつ。
しかしながら、この演奏の主役はジュリーニかも。
全体を通して、ゆったり目のテンポを保ちつつ、厚い管弦楽を見通し良く、雲間の陽光のような陰影のあるトーンで響かせる。それは、なんとも心地がいいし、懐もたっぷり。山場での盛り上げ方は瞬間沸騰するような爆発力を見せる大技もありながら、歌手との息はぴったり合っているように感じます。
改めて思うのは、ヴェルディの筆致の巧緻さ。前期作品における「ブンチャッチャ、ブンチャッチャ」とは一線を画する広がりと深みがあります。
それにしても、5幕版は聴きごたえがあるなぁ。
エリザベッタ:モンセラ・カバリエ
エボリ姫:シャーリー・ヴァーレット
ロドリーゴ:シェリル・ミルンズ
フィリッポ2世:ルッジェーロ・ライモンディ
大審問官:ジョヴァンニ・フォイアーニ
僧侶:サイモン・エステス
テバルド:ディリア・ウォリス
レルマ伯爵:ライランド・デイヴィス
ヘラルド:ジョン・ノーブル
天からの声:マリア=ローザ・デル・カンポ
アンブロジアン・オペラ合唱団(合唱指揮:ジョン・マッカーシー)
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