江戸川公園。桜は満開、オトメツバキも咲こうとしている。
バーンスタイン指揮・ピアノ、イスラエル・フィルの演奏でモーツァルトのピアノ協奏曲25番を聴く。
モーツァルトのピアノ協奏曲は宝の山である。初期の作品はあまり知らないものの、15、17、18、19、そして20番台は全ていい。コンチェルトだけでこれだけの功績を残せたのは彼だけであろうし、さらにモーツァルトにはオペラ、交響曲、室内楽がある。聴きつくせないし、語りつくせない。
そのうち好みは強いて言えば、23番、25番、27番。どれも快活な音楽だ。
23番はハイドシェック/ヴァンデルノート盤やバレンボイムがイギリス室内管とやったもの、25番はアンダの演奏、あるいは、バレンボイムがクレンペラーの指揮で弾いたものもなかなか面白い。27番は、ゼルキン/オーマンディ盤とカーゾン/ブリテンで決まり。あれら以上の演奏が、そうそう可能とは思えない。
このバーンスタインの演奏は活発であるが、聴きどころは音楽がぐっと落ち着いて鎮静したところにあると思う。1楽章ならば、展開部以降。憂愁が濃く、バーンスタインの背中には生活の疲れのなかから、いくぶんかの喜びが迸っているような、そんな按配なのである。録音が若干くぐもっているせいか、ピアノもオーケストラも、いささか鈍重に聴こえなくもない。それがこの演奏では、短所でありつつ長所となっていると感じる。
カデンツァは聴いたことがないので、おそらくバーンスタインが作曲したものと思われる(間違っていたら、ご指摘ください)。濃厚で、柄の大きな音楽である。25番のスタイルにふさわしい。
2楽章は、この演奏の白眉と思われる。バーンスタインのピアノは、際立ってうまいわけではないが、センスがいい。フレーズの合間に装飾音を散りばめているところ、それも、1回目と2回目、3回目とそれぞれ変化して弾くところは、とても楽しい。作曲家ならではの工夫だろう。いままで聴いた、この2楽章のなかで、これがもっとも面白い。
ときにバーンスタイン56歳。ニューヨーク・フィルを辞めて、次のステップに歩もうとしている時分か。ここにはすでに晩年の境地が見え隠れしている。
1974年11月、テル・アヴィヴ、マン・オーディトリアムでの録音。
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