ラルキブデッリの演奏で、モーツァルトの弦楽五重奏4番を再び聴きました(1994年の録音)。
小林秀雄の「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない」とは、この曲を指したものだけど、短調であることに加えてアレグロであることから、かなしみと疾走という言い回しはスッと腑に落ちます。
25番あるいは40番のシンフォニー、8番ピアノソナタあたりも「短調アレグロ」なので、上記の言葉は当てはまらないわけではない気がしつつも、弦楽五重奏においての弦のキザミには、なんとも云いようのない焦燥が感じられ、かなしみの色調は濃厚。この速さは、あと4年あまりで命を落とす作曲者の、無意識の心根だったかもしれない、とは穿った見かたであります。
さて、ラルキブデッリの演奏は清冽にして瑞々しい。どの楽器も雄弁だし、あたかも5月の空に描かれた飛行機雲のように伸びやか。各パートのバランスもいいようで、アンサンブルが立体的に聴こえます。2~4楽章はもとより1楽章においても、かなしみだけではなく、生への渇望のようなものがじゅうぶんに感じられ、あらためてモーツァルトが愛しくなります。
この団体のことだから、ガット弦を使っているとか、モダン楽器よりピッチが低いとか、そういうことをしているのかもしれませんが、いずれであっても、素晴らしい演奏に変わりはありません。
ヴェラ・ベス(ヴァイオリン)
ルシー・ファン・ダール(ヴァイオリン)
ユルゲン・クスマウル(ヴィオラ)
ギジュス・ベス(ヴィオラ)
アンナー・ビルスマ(チェロ)
PR