曽野綾子の「人間の基本」を読む。
保守派の論客というものはえてして一見本筋の理論を述べるのだが、威勢が良すぎてつんのめってしまう人が多い。
だから、自分の考えと違う意見を述べられたときは、どうにも素直に受け入れがたいものがあることが、ままある。
そんなことを予想しながら読み進んでいったが、この著作については、すんなりと腑に落ちるものが多かった。ことに老人に対する見解について。著者は執筆当時80歳を迎えていたが、老人への指摘はなかなか手厳しい。
「老人は残された時間という意味では、若者よりお金を持っています。その老人ができるだけ払わずに何でも国家や社会に「してもらい」、できるだけ甘えたいという考えは、老人の、というより人間社会の敵かもしれませんよ」。
また刑務所にいる老人に対して、
「彼らの多くは、出所しても行き場がないから、適当に悪さをしてすぐに戻ってくるリピーター」といい、「三食付の老人クラブみたいな刑務所に多額の税金を投入するぐらいなら、尖閣諸島に移して住んでもらいたいですね」。
切れ味がいい。
ラルキブデッリの演奏で、メンデルスゾーンの弦楽五重奏曲1番を聴く。
この曲は、メンデルスゾーンが17歳のときの作品。彼は、1824年から若くて優秀なヴァイオリニストであるエドゥアルト・リーツにヴァイオリンを学んだ。
ふたつのコンチェルトや、数多くの室内楽作品は、その勉学を生かしての作品群であると言っていいだろう。
協奏曲はもちろんだが、八重奏曲にしろ、この五重奏にしろ、ヴァイオリンのソロに印象的な個所が多く、とても魅力的だ。
ラルキブデッリは八重奏曲の名録音があるから、この曲にも期待したがやはり裏切らない。
1楽章の希望に満ちたメロディーが、あたかも天空を舞うように奏される。中低弦も安定しているが、やはり聴きものはヴァイオリン。なんて輝かしいヴァイオリン! こんなに無条件な幸福をまき散らした旋律もないものだ。
2楽章の、少し憂いのある音楽では、チェロが活躍する。主旋律の響きの暖かさもさることながら、通奏低音みたいに弾く個所でも存在感を示す。
3楽章は速いフーガ。八重奏曲のスケルツォを思いおこさせる。泡立つ音楽が気持ちいい。
終楽章も快速テンポ。素早くかけあう弦楽器がなんとも瑞々しい。そして、夢のようなヴァイオリン。
ヴェラ・ベス(ヴァイオリン)
ルシー・ファン・ダール(ヴァイオリン)
ユルゲン・クスマウル(ヴィオラ)
グース・ヨウケンドルプ(ヴィオラ)
アンナー・ビルスマ(チェロ)
1999年2月、オランダ、ハーレムでの録音。
夢のような街並み。
PR