錦糸町楽天地キネマズで、山田洋次監督の「母と暮らせば」を観る。
これは、ど真ん中ストレートの反戦映画。
長崎に落とされた原爆で亡くなった次男が、ひとり暮らしの母のもとに亡霊となって現われる。
彼の姿は、子供には見えるけれども大人には見えない。幽霊映画の常道である。だが、ちっとも嫌味ではない。
登場人物は少ない。母と亡霊の息子、息子とつきあっていた女。あとは、隣家の主婦と闇市の売人くらい。だから、映画の主題は母と息子との対話に集約されている。
吉永小百合はもちろんであるが、二宮の演技がいい。とてもおしゃべりな亡霊。陽気で涙もろい。これが無口な亡霊だったならば、怖いな。
ラスト近くに、吉永が二宮に怨念めいたセリフを吐く。目つきが尋常ではない。狂気を孕んでいる。やはりスゴイ俳優。思わずたじろいだ。
これには伏線があるのだが、それを、世間では穏やかな助産婦として見られている彼女が言うところに、この映画の核心がある。
ラサール弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲15番を聴く。
ベートーヴェンの弦楽四重奏、というか全作品のなかで、14番を最高傑作に推す方が多い。7楽章をひっさげた大作品。たしかにスゴイ。グウの音も出ない。第九シンフォニーもかくやという作品である。
ただ、ベートーヴェンのドヤ顔がときに気に障る。いかにも「どうだ、まいったか!」的な雰囲気を醸し出している。後期の深みとともに、中期のいきり立った激しさを盛り込んだような作品である。
それにくらべると、この15番はもっと穏健。5楽章からなり、長さは14番とそう変わらない。ただ、3楽章は雰囲気が異なる。
「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題されており、当時ベートーヴェンが罹っていた病気から回復したことの感謝の歌であると言われている。
味わいは、「田園」交響曲の5楽章のようにも感じられるが、こちらのほうが呼吸が深い。じっくりととった間に奥行きがある。
ラサール弦楽四重奏団の演奏は、いささか鋭角的ではある。病が治ったばかりにしては元気が良すぎる感がなくもない。でも、エッジがキッチリとたった弦楽の潔さは、他ではなかなか味わえないものだ。
これも大切な一枚。
ワルター・レヴィン(第1ヴァイオリン)
ヘンリー・メイヤー(第2ヴァイオリン)
ピーター・カムニツァー(ヴィオラ)
ジャック・キルステイン(チェロ)
1975年12月、ハノーヴァー、ベートーヴェン・ザールでの録音。
1月。
3月に絶版予定。。
PR