ヘミングウェイ(高見浩訳)の「最前線」を読む。
「死体は一体ずつ、もしくはひとかたまりになって、野原の丈の高い草むらや道ばたに横たわっていた。どの死体もポケットが引き出され、その上には蠅が舞っていた」
舞台は、ヘミングウェイが従軍していた、第一次世界大戦だと思われる。
アメリカ兵が、死体の山を自転車で駆け抜けて知り合いの中隊長のところへ向かう。会話の内容には、ほとんど意味がない。世間話に毛が生えたような。アメリカ兵の回想は、寓話的。恐怖を通り越して、虚無的ですらある。
戦闘シーンはないが、戦争の怖さの一端を、文章の端々から感じることができる。
「現実に行われるレイプでは、女のスカートを頭の上までまくりあげて息ができないようにしたり、共犯の兵士が女の頭の上にすわったりするものだ」。
殺し合いだけが戦争ではない。
カッチェンのピアノで、ブラームスの「間奏曲」op117を聴く。
いくつかのディスクを聴いて、カッチェンは極めて優秀な、というかブラームスの弾き手として最高クラスのピアニストだと思っていた。
そしてこの117を聴いて、ますますその考えを強くした。
アンダンテ・モデラート。
夜の帳が下りる。
ピアノの音色は、人通りの少ない都会のアスファルトの匂いのよう。たっぷりとしたテンポ、ふくらみのある響き。タッチはとても柔らかい。
アンダンテ・ノン・トロッポ
夜は、さらに深まる。吟味に吟味をかさねたであろう。ルバートは、とても注意深く行われ、スムーズでいきいきとしている。
アンダンテ・コン・モト
思索が蠢く。激しい夜の考え。悲観する。もだえる。でも、幸か不幸か朝は来る。
1962年~1965年、ロンドン、デッカ第3スタジオでの録音。
1月。
3月に絶版予定。。
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