ベートーヴェン 弦楽四重奏曲全集 東京クァルテット車谷長吉の「人生の救い」を読む。
これは、朝日新聞の土曜版「悩みのるつぼ」という、人生相談コーナーの連載をまとめた本。
著者の回答は、解説の万城目学が言うように、ことごとく相談を「殺して」いる。
著者は「物心ついた時から鼻で呼吸ができ」ない身体障害者であるから人並み以上に苦労をしてきたということで、結局人生には「救いがない」と、だいたいの相談を一刀両断にしている。
その快刀乱麻ぶりは痛快ではあるが、まとめて読むと正直言って、いささか飽きる。
月1程度の連載がちょうどいいのかもしれない。
東京クァルテットによるベートーヴェンをまた聴く。
弦楽四重奏曲14番をベートーヴェンの最高傑作であるとする人は、私の知る限り少なくない。
15番が5楽章、13番が最終的に6楽章、そしてこの曲が7楽章ということで、規模からしても内容からしてもこの作曲家の頂点としているわけだ。
好きか嫌いかといわれれば好きであるが、やや凝りすぎているような気がしなくもない。
ただ、いくぶんとっつきづらいこの音楽は、聴きこんでいくうちにだんだんとその深い味がわかってくる。その「だんだん」の過程が気持ちいい。
ベートーヴェンの傑作のひとつであることは疑わない。
その音楽を、東京SQは、ひたむきでありながら、自然な姿勢で演奏しきっている。肩に力が入りすぎていない。各弦楽器は明晰に聴こえてき、前回も言ったけど、冬の朝の空気のようにスウッと澄んでいる。トリルはきれいに粒だっており、間の取り方が相変わらず絶妙だ。これがこの四重奏団の持ち味といえる。
バリリやラサール、ズスケなどいい演奏が多い曲だが、この録音も記憶にとどめておきたい。
ピーター・ウンジャン(ヴァイオリン)
池田菊衛(ヴァイオリン)
磯村和英(ヴィオラ)
原田禎夫(チェロ)
1990年12月、91年4-6月、プリストン大学リチャードソン・ホールでの録音
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