ルドルフ・ゼルキン ベートーヴェン選集マイケル・サンデル(鬼澤忍訳)の「これからの「正義」の話をしよう」を読む。
引用が非常に多い本である。が、引用を追わなくても大変に読みでのある本であり、またきちんと引用の出処が明らかになっているので、深く追求したいときは便利だと思う。
なにしろさまざまな問題が提起されているため、読み終えたときには自分がなにもわかっていないことに気づかされる。罪深い。
特に面白かったのは、煙草の害に関する調査報告。
チェコでは喫煙者が多いため、喫煙による医療費の増加を危惧した政府が煙草税の引き上げを検討しようとした。増税回避を願うフィリップ・モリスは外部に調査依頼したところ、実は喫煙により医療費が安くなることが判明した。
「喫煙者は早死にするため、政府は医療費、年金、高齢者向け住宅などにかかる費用を節約できる」。
これを発表した途端、反喫煙団体から猛烈な反発を食らい、フィリップ・モリスのCEOが謝罪したという。
いま私は禁煙中であるが、こういう記事を読むとむしょうに吸いたくなるのだった。
ゼルキンのベートーヴェンを聴く。32番である。
ソナタもここまでくると、演奏者は並大抵の根性では弾かないだろうから、駄演も少ないだろう。どのピアニストを聴いても、それなりに聴けてしまう。
しかしなかでもとりわけ気に入っているのは、グールド、グルダ、リヒテル、そしてこのゼルキンの演奏である。
ゼルキンの演奏、もうたまらなくいい(なんか、こればっかり言っているな)。
テンポといい音の重さといい強弱の塩梅といい、じつにしっくりとくる。質量はずっしりとしていながらも流れは自然。力強くありながらもいい感じに肩の力が抜けている。音符のひとつひとつをキッチリとバットの真芯に当てていながら、音符の裏に漂うなにかを的確に抽出している感じとでもいったらいいのか。名人の匠である。
録音もいいと思う。
1967年3月、ニューヨーク、30番街CBSスタジオでの録音。
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