ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第15番&第16番 アルバン・ベルク四重奏団「最驚!ガッツ伝説」は、本人と娘さんが監修をした、ガッツ石松の迷セリフ集。
彼の面白さはテレビでもたびたび披露されているから、いまさら驚くようなことはないだろうと踏んでいたが、いやいやさらに深かった。
「ガッツ石松に座右の銘を聞いてみた。『座右の銘ね、ありますよ。座右の銘でしょう、両方ともイッテン・ゴ。目は悪くねぇんだ』」。
「クイズ番組で【鎌倉幕府のできた年】を『ヨイクニだから…4192年!』」。
「北斗七星の位置を聞かれたガッツさん、『いやぁ、この辺の者じゃないからよくわかんねえなぁ』」。
「ドメスティック・バイオレンスについてどう思うかと聞かれて、『まだ見てないけど、面白いらしいね』」。
これらのボケは実はわりと計算されたものらしいが、計算されての爆発力だとしたら余計にスゴい。音楽にしても笑いにしても、想像を超えるものには驚きと同時に畏怖を感じるなあ。
ベートーヴェンの後期四重奏曲のなかでこの15番は、前後の2曲や13番に比べるとちょっとだけインパクトが弱いような気がしていたが、アルバン・ベルクの演奏で面白さをしみじみ実感した。
この団体特有の、ねっとりとした緊密なアンサンブルは好調だし、旋律の歌わせ方は呼吸が深くて表情の振り幅が大きい。
音楽は冒頭から深刻に始まるわけなんだけど、なにかしら楽観的というか、明るさがにじみ出ている。厳しい寒さのなかに燻ぶる炎といった感じ。
穏やかでユーモラスな2楽章もステキだ。いくぶん甘めの味付けがおいしい。
長大な3楽章。弦楽器が、大きな呼吸でもって朗々と鳴る気持ちよさ。この楽章は「リディア旋法による病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と呼ばれることがあるようだ。この演奏では「聖なる」というよりは、どっぷりと世俗にまみれた感謝の歌に聴こえる。それがいい。
もともと明るい色調の4楽章は、なんとも元気、ときおり弦が軋むほど。楽しげな雰囲気の雲行きが怪しくなり、アタッカで終楽章へ流れ込むところは素早い。あたかもヨーロッパの古い映画音楽を思わせるような雰囲気を醸し出しつつ、流れるように終結する。
全体的に、陰影が濃くて甘いタッチの演奏で、それが合っているようだ。
というわけでこの15番、アルバン・ベルク四重奏団によるベートーヴェンのなかでもっとも気に入った。聴いたのはせいぜい1/3くらいなんだけど。
ギュンター・ピヒラー(Vn1)
ゲルハルト・シュルツ(Vn2)
トマス・カクシュカ(Va)
ヴァレンティン・エルベン(Vc)
1983年12月、スイス、セオン、エヴァンゲリカル教会での録音。
PR